
恋愛リアリティショー(恋リア)を観ていて、いちばん心が動くのはどんな瞬間でしょうか。例えば、夜のテラスで参加者同士が過去を語り合い、「深いね……」と黙り込む、あの“瞬間”。
いま、Z世代のあいだでは、まさにあの時間を日常のなかでつくろうとする動きがあるようです。それが「語り飲み」や「語りドライブ」と言われるもの。騒ぐためでも近況報告のためでもなく、「今日はじっくり語りたいから」という理由で集まる。
AIに悩みを打ち明けるのが当たり前になった時代に、なぜわざわざ“語る”場を求めるのでしょうか。
価値観や将来、人間関係などについて深く話すこと自体を目的に集まる「語り飲み」。お互いが向かいあって座らないからこそ、話が深まる「語りドライブ」。興味深いのは、こうした場がコミュニティ内で「語りモチベ高い」などと記号化されていることです。
最近はギバー・テイカーやフレネミーといった人間関係に関するキーワードも増え、それらがミーム化して軽やかに(そして便利に)扱われるのと同じように、「深く話す」という行為も記号化されつつあるようです。
実際「わちゃわちゃする友達」と「深く語れる友達」を分けて付き合っている人もいます。また、一人で過ごす時間に満足できるようになったからこそ、人と会う時間には“密度”を求める。そんな変化がZ世代の「語り飲み」を後押ししているのかもしれません。
「語り飲み」以外にも、語りが生まれる場には、共通点がありそうです。
・Netflix「オフライン ラブ」: 2025年に配信された、スマホやPCなどデジタル機器を一切預けて南仏ニースで10日間を過ごす恋愛リアリティショー。連絡手段は手紙だけで、関係を深めるには「会うしかない」状況です。逃げ場のない設定が、言葉の重みを増していました。
・エアビー飲み: Airbnbなどの民泊を借りて、仲間だけで開く飲み会のこと。居酒屋のような時間制限も周囲の目もなく、そのまま泊まれるのが魅力です。友人との旅行先に民泊を選ぶ人が51.3%とホテルを上回ったという調査(LDKプロジェクト調べ/Beds24)もあり、“自分たちだけの夜”は、終電を気にせず話が深まっていく語りの舞台にもなりえます。
・大学サークルの「語りドライブ」: 旅行で車を借りると、行き帰りの2〜3時間がそのまま語りの時間に。「正面から顔を見なくていい」「閉じた空間だから話しやすい」。いつしか「語りたいからドライブに行こう」と、目的と手段が逆転することも。
スマホがない、時間を気にしなくていい、顔を見なくていい。3つの事例に共通するのは、語りを引き出す“仕掛け”があることです。
また、Z世代はAIに悩みを相談することにも慣れています。GMO NIKKOのZ世代トレンドラボによれば、女子高校生の54%が生成AIに悩みを相談しており、そのうち57%が「誰にも言えない悩み」を打ち明けた経験があるそうです。マイナビの調査でも、Z世代社会人がAIに相談した内容の上位には「恋愛(45.5%)」「人間関係(25.6%)」が並びます。ただし、AIの回答を「90%以上信頼している」大学生はわずか5.6%でした。
相談相手としては頼れるけれど、どこか物足りない。その理由のひとつは、AIが基本的に「わかってくれる」存在であることかもしれません。スタンフォード大学などの研究チームによる論文では、11のAIモデルが人間に比べてユーザーの行動を約50%多く肯定する傾向が示されました。迎合的なAIと話した人は「自分は正しい」という確信を強め、対立を修復しようとする意図が低下した一方で、そのAIをより高く評価したといいます。
ただし「語り飲み」で起きているのは、むしろその逆です。「基本的にはわかる。でもさっきのはよくわからん」「でもさ、それって逆じゃない?」。自分の予測を裏切る返しが来ることで考えが揺さぶられ、少しだけ書き換わる。信頼している友人同士での語り飲みであれば、共感も反論も更新も、笑いを交えて入り乱れます。
きっと必要なのは、本気で考え、本気で返してくれる相手です。そして、それを一緒に面白がれる関係性。その両方がそろったとき、語りは「深い」時間になるのでしょう。
AIとの対話は、壁打ちに似ています。打った球は、打ちやすい場所に、ほぼ予想どおりに返ってくるので、思考の整理には最適です。しかし「語り飲み」は相手がいるラリーに近いものです。球が予想外のコースに返ってきたり、自分でも知らなかった自分のフォームに気づいたりすることもあるでしょう。
もしかしたらZ世代は「わかってもらえること」に少し飽きているのかもしれません。AIやSNSなど、私たちに共感し、肯定してくれるものは目の前に溢れています。そう考えると「語り飲み」は、「わかってもらえないこと」も覚悟した、でもどこか安全な“ぶつかり稽古”だと捉えることができます。
予想外のことを聞かれたり、突っ込まれたり、1対1とは異なり複数の意見が飛び交ったり……それらすべてに「豊かさ」を感じているのかもしれません。
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「イミ消費」時代に、生活者がそのブランドを選ぶ理由となる「意味的価値」を開発・評価し、商品・サービス、ブランド体験、広告コミュニケーションへの実装まで伴走します。
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