
タイムラインに流れてくる「言っていい?」「ついに来た」「炎上覚悟で言います」「重大発表あります」といった一言だけの投稿。何の話なのか気になって、ついリプライ欄を開いてしまった経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。
こうした、文脈をあえて省いた投稿は、海外で「Vagueposting(ヴェイグポスティング)」と呼ばれ、最近のSNSを象徴する言葉のひとつになっています。日本語の「匂わせ投稿」にも近い現象ですが、恋愛や交友関係をほのめかすことが多い「匂わせ」に比べ、Vaguepostingはより広く「説明しないこと」そのものを指しています。
それは注目を集めるための計算なのでしょうか。それとも「全部を説明しなくていい」という、新しい表現の自由なのでしょうか。その両面から考えてみたいと思います。
Vaguepostingとは、文脈や説明をあえて省いたまま投稿し、読み手の「何の話?」という反応を引き出す投稿スタイルのことです。Merriam-Websterのスラング辞典では、反応や同情を集めたり、商品発表などへの期待感を高めたりするために、意図的に曖昧に投稿することと説明されています。
ルーツは、2000年代末のFacebookで広まった「Vaguebooking」に遡り、「#vagueposting」というハッシュタグの最初の使用例は2011年頃のようです。それが2025年末から2026年初めにかけて、Xで「タイムラインがvaguepostingだらけだ」という不満とともに広まりました。英オックスフォード大学出版局が2025年の「今年の言葉」に選んだ「rage bait(怒りを誘う投稿)」と同じく、人の反応そのものが拡散の燃料になる構造が見えてきます。
・「365個のボタン」ミーム: TikTokで、あるクリエイターが投稿した動画に、ユーザーが「1日1個、時間の流れを意識するためにボタンを365個買った」とコメントしました。理由を問われると「これは私にとって意味があればいいことで、誰かに説明する気はない」と返し、このやり取りがミーム化。
・「言っていい?」系の一言投稿: 「言っていい?」のような中身のない投稿には、リプライ欄でAIのGrokに解説を求めるユーザーも見られ、そうしたやり取り自体がエンゲージメントを押し上げる循環になっています。
・「大きな発表があります」型の予告投稿: 詳細を伏せたまま期待だけを高める予告投稿も、Vaguepostingの一種と言えます。Merriam-Websterも商品ローンチ前の用途に触れており、個人だけでなく、企業や著名人も使う手法です。
ニューヨーク大学でデジタル文化を研究するZari Taylor氏は、SNS上のコンテンツの多くが広告だと誰もがわかっている今、何も本物に感じられなくなっている、という趣旨の見方を示しています。広告や、AIが量産する低品質なコンテンツ(AI slop)が流れ続けるフィードのなかで、とにかく何かを投げて反応を待つ。この投稿スタイルは、アテンション・エコノミー(注目経済)疲れの症状として捉えることができます。
一方で、それだけでは説明できないかもしれません。SNSでは、常に発言の意図を問われ、言葉足らずを責められ、炎上を避けるために前置きや注釈を重ねることが当たり前になりました。そんな環境で「説明する気はない」と言い切る姿がどこか痛快に映ったのではないでしょうか。「わかる人だけわかればいい(IYKYK)」という感覚や、親しい友達だけに見せるクローズドな投稿文化とも地続きの価値観です。
もちろん、反発の声も根強くあります。実際に何も意味していない投稿も目立ちますし、「vaguepostをする者同士が出会ったら」というパロディ投稿も生まれています。ある人には自由に、ある人には釣りに見える。その二面性こそが、このキーワードの面白さなのかもしれません。
日本語には「行間を読む」という言葉があります。俳句のように、語らないことでかえって豊かになる表現を、私たちはもともと知っています。だとすれば、Vaguepostingの良し悪しは「曖昧かどうか」では決まらない、とも捉えることができます。分かれ目は、その余白が誰のためにあるのか、という点です。
自分のために残した余白は、表現の自由にもなりえます。一方で、相手の反応を引き出すためだけに作られた余白は、「匂わせ」や釣りとして受け取られます。SNSとともに育った世代は、説明しすぎることにも、説明されないことにも疲れています。だからこそ同じ投稿に、共感と苛立ちが同時に湧き上がるのだと思います。
これらの価値観には、ブランドにとっても示唆があります。ティザーで匂わせるのは簡単ですが、受け手はもう仕掛けを見抜いています。求められているのは、答えをぼかすことではなく、受け手が自分の解釈を持ち込める余白を設計すること。語りすぎない勇気と設計が、これからのコミュニケーションの新しいポイントになっていくのかもしれません。
このシリーズをもっと読む
NEW STANDARDをもっと知る
NEW STANDARDは
「新しい意味」を創造し、世界の捉え⽅を広げる
ミーニング・デザインカンパニーです