「海」をテーマにした広告アイデア8選:NEW STANDARDクリエイティブレビュー

2026/07/31
ニュースタ!編集部

こちらは毎月、NEW STANDARDからその月のテーマに沿った広告・コミュニケーション事例を、弊社クリエイティブチームに所属するプランナーがそれぞれ2本ずつピックアップしてご紹介する企画です。業界の様々な事例から、課題を解決するアイデアや表現のヒントを届けることを目指しています。

7月のテーマは「海」。

海にまつわる様々な事例を、既存の価値に新しい意味を与える「意味的価値」という切り口からご紹介します。同じ「海」というモチーフでも、切り口次第でこれほど多様な打ち出し方ができるのか、という発見をお楽しみいただければと思います。

< 事例選出プランナー >

多木裕晶 / クリエイティブディレクター
BBDO JAPAN等を経て、2026年にNEW STANDARDに参画。定量調査やFGIを活用した戦略立案から、ビッグアイデア開発、キャンペーンデザインまでをトータルに手がける。主な受賞歴として、Spikes、ACC、effie、WARC等。

伏見和真 / クリエイティブディレクター
外資系広告代理店数社にてCDやADに従事。2026年6月、NSに参画。飲料/食品/車/エンタメなど多業種のブランディングやコミュニケーション開発を担当。マス広告からデジタル/アクティベーション/PR、PKGまで統合的なCR開発を得意とする。

原美涼 / アートディレクター
広告制作会社にてAD/デザイナーとして従事。2024年にNEW STANDARDに参画。食品/飲食/化粧品など様々な案件を手がけ、アートディレクションの経験を生かしたコミュニケーションプランニング業務を行う。 

竹本凜太郎 / クリエイティブプランナー
立教大学経済学部卒業。在学中より音楽コレクティブを主宰し、コロナ明けの東京における次世代テクノカルチャーの立ち上げやコミュニティ形成、イベントの企画・運営に従事。現場で培ったカルチャーインサイトやコミュニティデザインの知見を生かし、現在はクリエイティブプランナーとしてコミュニケーションプランニングを行う。

多木裕晶(クリエイティブディレクター)のピックアップ事例

01. #KeepLivingCoralWWF Hungary

©︎WWF Hungary

事例概要:
世界的な色見本会社PANTONEが2019年のトレンド色として発表した「Living Coral(生きているサンゴ)」に対し、環境NGOや独立系クリエイターらが無許可で仕掛けた、痛烈なゲリラ・パロディキャンペーン。サンゴを危険にさらしている海洋プラスチックゴミをあえて美しいLiving Coralの色で塗装し、パントーンのカラーチップ風のデザインに落とし込んだビジュアルをSNSを中心に展開。トレンドを消費するデザイン業界の偽善を暴いて世界中で大バズりし、後にパントーンやAdobeが公式の海洋保全プロジェクト「Glowing Glowing Gone」を立ち上げざるを得なくなったトリガーとなった施策である。

(トレンドカラーの)意味的価値:
消費を促すカラー として再定義。(そうして、絶滅危惧のアラートとした)

プランナーコメント:
日本では絶対にできない気がするが、Pantoneのトレンドカラー発表に乗っかった、鮮やかな企画。トレンドカラーというのはまさに商業的かつ一過性のイメージがある分、それを環境保全へのカウンターメッセージに繋げている点に落差があり、強いパワーを生んでいる。これに影響をうけ、Pantoneは、海水温上昇により死滅する直前のサンゴが放つ鮮烈な3つの蛍光色をカラーパレットとして、世界中のデザイナーに無料配布する「Glowing Glowing Gone」という企画をさらに行った。

参照:https://www.youtube.com/watch?v=yTVQffvqMRk

02. Beach Mode(Trygg-Hansa)

©︎Trygg-Hansa

事例概要:
保険会社のTrygg-Hansaが、親がビーチでスマホに夢中になり、子どもの溺水事故を見落とすリスク(サイレント・ドローニング)を防ぐために開発したスマホアプリ。アプリを起動して「ビーチモード」をオンにすると、フライトモード(機内モード)のように電話やSNSなどのすべての通知が遮断され、画面には子どもの見守りを促すメッセージだけが表示される。

(スマホを使わないことの)意味的価値:
単純な苦痛ではなく、子供への愛情表現として再定義。(そして、ビーチモードとして具現化)

プランナーコメント:
スマホを見ている人に、スマホをやめようとストレートに言っても伝わらない。その解決策をスマホの中に作ったところが新しい発想。端的に言えば、やっていることはスマホを使えなくしているだけなのだが、機内モードと並ぶ形で「ビーチモード」というモードを作ったことが重要なポイント。人間とは面白いもので、内容は同じでも「スマホを見ないで」と言われると抵抗を感じるのに、「ビーチモードにして」と言われると、なぜかやってみたくなる。これこそがアイデアの力だと感じる。

参照:https://vimeo.com/534173559

伏見和真(クリエイティブディレクター)のピックアップ事例

01. Sea Levels(Greenpeace)

©︎Greenpeace Brazil

事例概要:
地球温暖化による海面上昇の影響を人々に認識してもらうため、気温の上昇が海面水位の変化につながることをわかりやすく可視化し、気候変動の深刻さを伝えた。

(気候変動の)意味的価値:
データや危機的な映像ではなく、日常の風景のわずかな変化によってこそ実感できるもの。

プランナーコメント:
とてもシンプルで強いアイデア。 地球温暖化や海面上昇という大きくて捉えにくい問題を、数字やデータではなく「いつもの風景が少し変わるだけで起こる異変」として可視化している点が秀逸。 また、船を上下に動かしたのではなく、海面そのものを上げることで、気候変動が特別な出来事ではなく、私たちの日常に静かに忍び寄っていることを感じさる。 派手な表現ではないにもかかわらず、見る人に「もしこのまま進んだら…」と未来を想像させる、非常に知的でミニマルなコミュニケーションだと思う。

参照:https://www.dandad.org/awards/professional/2010/press-advertising/17924/sea-levels/

02. Shark(WWF)

©︎WWF

事例概要:
WWFの野生生物保護キャンペーンの一篇。 サメを恐怖の対象ではなく、保護すべき生態系の存在として見せることで、海洋生物に対する認識をずらしている。 違法な動物取引ネットワークの複雑さと脆さを伝えるため、密猟者から流通関係者、消費者までが不安定に積み重なった「人間のピラミッド」を制作。現実感を保ちながらもゲームのような質感を持つ3DCG表現によって、「一つを止めれば全体が崩れる」というネットワークの脆弱性を視覚化した。細部まで作り込まれた人物造形と、どこか不気味で時代を超えた表情によって、違法取引の実態を印象的に表現している。

(違法取引の)意味的価値:
密猟者や、犯罪組織だけが引き起こしているのではなく、消費者を含む全ての関係者によって作られている。(だからこそ、1人を止めることが全体を止めることにつながる。)

プランナーコメント:
単に密猟者を悪者として描くのではなく、消費者や流通、加工なども含めた「取引全体の構造」を人間のピラミッドとして可視化している点が秀逸。また、誰か一人が抜ければ全体が崩れそうな不安定さによって、「一つを止めれば、すべてを止められる」というコピーを視覚的に成立させている。 社会課題を感情的に訴えるのではなく、構造そのものをシンプルかつ象徴的に表現している点に、広告としての完成度の高さを感じた。

参照:https://www.dandad.org/work/d-ad-awards-archive/shark

原美涼(アートディレクター)のピックアップ事例

01. Life Below Water: The Arrival of a New Species(The Global Goals / United Nations)

©︎United Nations

事例概要:
The Global Goalsが、海に漂うプラスチックを“新種の海洋生物”のように見せ、SDGs目標14を視覚化したキャンペーン。美しい海洋生物の文脈に異物を混ぜることで、プラスチック汚染の違和感を直感的に伝えている。

(プラスチックゴミの)意味的価値:
新種の海の生物(として優雅に描き、異質さを情緒的に突きつける)。

プランナーコメント:
ネイチャードキュメンタリー風の作りでプラスチックゴミを伝える、強烈な皮肉がおもしろい。一見美しくさえ見えてしまう映像なのもより恐ろしさを感じさせる。

参照:https://www.dandad.org/work/d-ad-awards-archive/life-below-water

02. Global Plastic Fishing Tournament(Corona)

©︎Corona

事例概要:
Coronaが、漁師に魚ではなく海洋プラスチックを“釣って”もらい、回収量を収入化するトーナメントを展開したキャンペーン。ビーチブランドらしい海洋保全を、競技・地域経済・PRの仕組みに変換している。

(ゴミ回収の)意味的価値:
「漁業(ビジネス)」として再定義。(漁師の困窮と海洋汚染を同時に解決する)

プランナーコメント:
環境保護という綺麗事のメッセージを押し付けるのではなく、現地のコミュニティが抱える経済的な課題と、ブランドが解決したい環境課題を完全に一致させた仕組み。 魚が獲れなくて困っている漁師たちにとって、海を汚すプラスチックゴミは敵そのものだが、この大会によって「価値のある獲物」へと反転することで一過性のチャリティイベントでなく、その後も現地の漁師たちが日常的にプラスチックゴミを回収して収入を得られる長期的な循環システム(インフラ)へと発展させているのがブランドの継続的なあり方も示していると感じた。

参照:https://www.thedrum.com/awards-case-study/corona-how-big-thinking-cleaning-our-oceans

竹本凜太郎(クリエイティブプランナー)のピックアップ事例

01. Palau Pledge(The Palau Legacy Project)

©︎Palau Pledge

事例概要:
パラオを訪れる旅行者に環境保護の誓約をパスポートへ署名させ、観光行動そのものを海洋保全への参加に変えたキャンペーン。

(パスポートの入国スタンプの)意味的価値:
環境保護の署名に、再定義。

プランナーコメント:
「パスポート」と「入国審査」という、旅行者なら誰も避けて通れない仕組みそのものを使っているのが面白い。広告をつくるのではなく、システム自体をメディアにしている発想だと感じた。ポスターやパンフレットなどで呼びかけても、多くは見られずに終わってしまうが、自分のパスポートにスタンプが押されて、実際にペンを持って名前を書くという体験をすると、どうしても「自分ごと」として受け止めざるを得なくなる。アイデアとしての巧さはもちろんだが、それ以上に「人を動かすには、これくらい行動に組み込まないと届かないのか」と考えさせられた事例だった。

参照:https://www.dandad.org/work/d-ad-awards-archive/palau-pledge

02. Reverse Media Schedules(Sea Cleaners / JCDecaux)

事例概要:
海洋保全団体「Sea Cleaners」とJCDecauxが実施したキャンペーン。海や街に捨てられたブランドごみを「世界で最悪の屋外広告」と捉え、その露出を広告指標として可視化。ブランドが清掃活動に投資することで、自社の“最悪の広告”を減らしていく仕組みをつくった事例。

(ゴミの)意味的価値:
ブランド価値を削る広告

プランナーコメント:
この事例の面白いところはゴミ問題を環境課題ではなく、ブランドの広告課題として言い換えている視点。海洋汚染をなくしましょうと訴えても企業にとってはどこか他人事になりがちだが、「そのゴミが、あなたのブランドにとって一番見られたくない広告ですよ」と言われると一気にマーケティングの話になるという、この視点の転換だけで企業が動く理由を作っているのが秀逸。環境活動とマーケティングにおいて両者の利害が一致するポイントを見つけて仕組みにしたところにこの事例の価値があると感じた。

参照:https://campaignbrief.com/sea-cleaners-jcdecaux-pull-the-worlds-worst-outdoor-ads-from-rotation-via-dentsu-creative/

「海」をテーマにした広告アイデア:まとめ

今回紹介した事例は、「海」という同じモチーフを扱いながらも、トレンドカラー、スマホ、パスポート、屋外広告と、まったく異なる切り口から意味を捉え直しています。

既存のものが本来持っていた意味を捉え直すことで、人の行動や社会の意思決定を動かしています。「伝える」のではなく「意味を変える」。それこそが、意味的価値という切り口の本質なのだと思います。

来月もまた新しいテーマで、広告表現のヒントをお届けします。

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