「香らせない」という選択。香りトレンドから読み解く若年層インサイト

2026/08/18
ニュースタ!編集部

かつて香りは、自分を主張するための1つの道具でした。「いい香りの人」という記号を身にまとって、すれ違う瞬間に存在を印象づける——そんな"足し算"の消費が、長らくフレグランスの王道だったはずです。

しかし、いまの若年層が香りに求めている価値は少し異なるようです。リサーチを通じて見えてきたのは、香りを「常に必要なもの」としてではなく、「何かを切り替えたい瞬間だけ手に取る"装置"」として使いこなすものでした。

香りは「持ち物」から「スイッチ」へ

朝のシャワーはシトラスの香りで起動して、勉強中はミントやユーカリで頭をクリアにする。帰宅したら雑貨屋さんで買ったお香で仕事モードから解放されて、就寝前はピローミストで眠りの態勢に入る——。こんなふうに、香りは「気分の切り替えスイッチ」として日常に組み込まれています。

また、この「切り替えスイッチ」という役割は、食品や飲料にも広がっています。 朝はコーヒーの香りや味わいで交感神経をオンにして、試験前やミーティング前はミンティアやフリスク、ガムで集中のギアを入れる。緊張したあとはGABA配合チョコレートのような機能性菓子で整えて、夜は就寝前に乳酸菌飲料で一日を締める。そんなナイトルーティンを「スリープセレモニー(眠りの儀式)」と呼ぶ声もありましたし、落ち着いた香りのリラクゼーションドリンクを好んでいる方も多いでしょう。

これらのライフスタイルから読み解けるのは「いい香りを身にまといたい」「刺激的な香りを味わいたい」という欲求だけではなく、「自分の状態をコントロールしたい」という欲求ではないでしょうか。フレグランスもフレーバーも、価値の重心が「他者の評価」から「自己の調律」へと静かに移っています。

「気づかれない香り」が選ばれる

特にここ最近で象徴的なのが、強く香る香水よりも、自然で肌に溶け込み、より“気づかれない(気づかれずらい)” 香りが好まれていることです。

例えば、SHIROの「サボン」。石けんのような清潔感は "良い香りの最大公約数" として、初対面の人に会う際ののシグネチャーにもなっています。

実際、Z世代向け調査でも「好感を持てる香り」にシャボン系が挙がってくることも多く、「やりすぎない」感性は、他の消費傾向にも見てとることができます。 たとえば、無糖ノンアルのように "甘さも酔いも盛らない" 設計が支持されるのも、同じベクトルだと捉えることができるかもしれません。

自分を表現するために、表現しすぎてはいけない——この一見矛盾した感覚こそ、現代のスメハラ(スメルハラスメント)を配慮しながら、過剰な自己表現は控えたい世代の本音を映しているように感じます。

なぜいま「懐かしい香り」なのか

もうひとつ注目したい「香り」が、過去の記憶と結びついた香りへの欲求です。香りには、その時やその場所の情景を一瞬で思い出す力があります。旅先で買ったお香を部屋で使えば、その風景をつい思い出してしまう人も多いのではないでしょうか。

毎年秋にトレンド入りし、さまざまなブランドの期間限定フレグランスも即完する「金木犀」の香りもその典型と言えますし、ラムネの香りや畳の香り、おばあちゃん家の香りなど「過去の情景」を呼び起こす香りに、人は強く惹かれる傾向にあります。

この「懐かしさ消費」は、食や空間の領域でも大きなトレンドになっています。 純喫茶ブームが代表的ですが、色鮮やかなクリームソーダ、レトロなプリンやナポリタン、アデリアレトロのガラス食器——いずれも自分が生まれる前の昭和という「未経験の過去」を、新鮮な"初めての体験"として楽しんでいます。市場もこれに呼応し、コンビニでも「昔懐かしい」駄菓子シリーズや、復刻商品を目にする機会が増えました。

興味深いのは、彼らが懐かしむのは必ずしも "自分の記憶" ではないという点です。懐かしさが「過去の自分を肯定する手段」であると同時に、「不確かな現在の外側にある、確かな何かに触れる手段」にもなっているのです。

リサーチャーの視点:自分を整える、つなぎとめる「香り」の価値

香りトレンドを「いい香りの流行り廃り」としてだけ見ると、おそらくその本質を見誤るのではないでしょうか。

若年層にとって香りは、自己を主張する手段ではなく、自己を調律し、記憶をつなぎとめるためのシグナルへと変わりつつあります。彼らは香り・食・飲み物といったカテゴリーの垣根を越えて、「自分を整える」「自分をつなぎとめる」ために、五感を横断的に使いこなしていることが読み解けます。

「香らせる」から「整える」。
「目立つ」から「馴染む」。
「足す」から「引く」。

これらの文脈やインサイトをどう汲み取るかが重要で、これは「香り」というテーマに限らず、さまざまなブランドの意味的価値やナラティブを生み出すためのヒントになりそうです。

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