「ザクザク」「もちもち」「ふわふわ」——。
私たちのタイムラインやコンビニの棚には、かつてないほど「食感(テクスチャー)」を強調する言葉で溢れています。
ハードグミのヒットや、口の中でとろける生食感スイーツのブーム。これらを牽引する若年層を見つめ直したとき、ひとつの仮説が浮かび上がります。彼らは、その上の世代のように「おいしさの一要素」として食感を楽しんでいるだけではないのかも……。
なぜZ世代は、これほどまで “食感” にこだわり、価値を見出すのか。その背景にあるライフスタイルと、食に対する「意味的価値」を紐解きます。
ASMRネイティブ世代
彼らが「食感」に対して敏感である理由の1つに、デジタル環境が挙げられます。食感とデジタル、一見全く反対に位置する要素かと思うかもしれませんが、Z世代はYouTubeやTikTokで「ASMR動画」を子どもの頃から日常的に見てきた世代です。
かつて、他人がポテトチップスを食べる音は「ノイズ」でしたが(おいしそうに演出されたCMなどを除いて)、Z世代にとってそれは「体感エンタメ」的価値に変換されています。 食べる前にすでに、そのプロダクトが脳に届ける「音」や「テクスチャー」をコンテンツとして予習し、期待を抱きながら購入しているのです。
ひとくちで分かる快感=タイパの究極形
あらゆる体験において「時間あたりの密度(タイパ)」を求めると言われるZ世代。彼らにとって、複雑な味や香りのレイヤーよりも、口に入れた瞬間、0.1秒で「ザクザク」「もちもち」「ふわっふわ」のように明確な快感刺激がやってくることの優先度が上がることは想像に難くないでしょう。
じっくり味を理解するプロセスも素敵ですが、一方でひとくちでダイレクトに脳に楽しさが届く「食感」は、Z世代にとってタイパが良い食体験である、と捉えることができます。
食感とセルフケアの関係性
また、彼らにとって「噛む」という行為は、メンタルをチューニングするきっかけになっていることがわかります。デジタルノイズに囲まれ、日々の疲弊やイライラと向き合う彼らは、無意識のうちに「今の自分の気分」に合わせて食感を選び分けている、という仮説が立ちます。
・「ハード(硬め)」を選ぶとき:ストレスやイライラを物理的に噛み砕く、あるいは作業への集中力を高めるためのブースターにしている。
・「ソフト(とろける・もちもち)」を選ぶとき:傷ついたメンタルや不安を癒し、ご褒美的に自分を甘やかすための安心材料にしている。
たとえ味が同じであっても、食感が変われば「セルフケア」に対する意味が変わります。彼らが食感に“うるさい” のは、自分の心身をサバイブさせるため、こまめにチューニングをしているからなのです。
ミーム時代に加速する「オノマトペ消費」
少し異なる角度からも食感消費について考えてみます。Z世代のコミュニケーションは、長文のテキストよりも、感情が直感的に伝わる動画やミームが主流です。「このお菓子は◯◯の成分が入っていておいしい」といった言語化は、SNS上ではなかなか拡散されにくいものです。
一方「このザクザク感ガチで神」「パリッパリ。ASMRやばい」といった食感ベースのオノマトペは、圧倒的に伝わりやすく、共感を生みやすい傾向にあります。
際立った食感は、それ自体が「シェアしたくなるエンタメ」であり、自己表現にも繋がるのです。
リサーチャーの視点:「食感の意味」がシフトしている
これまで、多くの食品メーカーは「食感」を、製法や技術のコモディティ化を防ぐための「プロダクトの強み」として語ってきたのではないでしょうか。もちろんそれが間違いだったわけではありません。しかし、Z世代のインサイトから見えてくる「食感」の意味は少し異なります。
彼らにとっては食感が「タイパ欲を満たし、時にメンタルをケアし、コミュニティとつながるための体験価値」そのものになっていることが見えてきます。
「食感」に関する商品や情報が増えつづける今。改めてその価値を見直すことで、食の楽しみそのものを拡張できるのかもしれません。


