デジタルとフィジカルが交差する、新たな当たり前の世界「フィジタル」とは

物心ついたときからスマホやタブレットが身体の一部で、ゲームやメタバースが放課後のたまり場。そんな2010年以降に生まれたα世代(アルファ世代)にとって、オンラインとオフラインをわざわざ切り分けること自体が無意味なのかもしれません。今、その2つの境界線が混ざり合う「フィジタル」が、新しい「当たり前の世界」を作ろうとしています。
フィジタルとは、文字通り「フィジカル」と「デジタル」を掛け合わせた言葉です。マーケティングの巨匠フィリップ・コトラーも、著書『マーケティング6.0:イマーシブ・マーケティングの未来(Marketing 6.0: The Future Is Immersive)』(※日本語版は未出版)において、「フィジタル(Phygital)」を現代の消費者の本質的な特徴および戦略の核心として位置づけています。
これは単に「ネットで注文してお店で受け取る」といった効率の話(OMO=Online Merges with Offline)ではありません。デジタルでの体験がフィジカルな感触を伴ったり、リアルの行動が即座にデータとして空間に反映されたりするような「循環の状態」を指します。
先述のコトラーは、Z世代とα世代を「フィジタル・ネイティブ」と定義しています。 彼らはデジタルとフィジカル(物理的)な世界の境界を区別せず、両方が融合した状態を当然のものとして受け入れています。 単なるオンライン(URL)だけでも、リアル(IRL: In Real Life)だけでも満足せず、両者のメリットがシームレスに組み合わさった体験を求めているのです。
フィジカルを理解するための具体例で言うと、まだ記憶に新しい2025年に開催された大阪・関西万博の会場では、最新テクノロジーが私たちの「体温」を感知し、空間そのものを変化させました。
・「null²(ヌルヌル)」における「Mirrored Body」(落合陽一氏プロデュース)
専用アプリでスキャンした自分の分身(アバター)が、パビリオン内の鏡や巨大スクリーンに溶け込む。容姿や性格も含めた「自分」という存在がデジタル化され、物理空間で等身大のアバターと対峙することができる体験。
・「大阪ヘルスケアパビリオン」のREBORN体験
来場者の健康データをリアルタイムで解析し、25年後の「ミライの自分」を映し出す演出が話題に。フィジカルで起きうることをデジタルで予測し、フィジカルに還元するシームレスな体験。
また、デジタルなアプローチで付加価値を持たせる戦略は国内外でも支持を集めています。
・バーバリー「オープン・スペーシズ」
中国・深圳の店舗では、SNS(WeChat)上の活動が「ソーシャル通貨」として蓄積され、店内のカフェの特別メニューや、試着室で自分専用のプレイリストを流せる権利に交換可能。デジタルの振る舞いが、物理的なおもてなしをアップグレードする事例。
・ANYCOLOR(にじさんじ)
VTuberグループを運営するANYCOLORは、VTuberを起点に、年間数百件の周年記念品や限定グッズ施策を展開。さらにライブや展示会といった没入型イベントへと連動させ、多層的な導線を整備。
・三越伊勢丹「REV WORLDS」
「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」では、スマホから24時間どこからでも、伊勢丹新宿本店などが再現された仮想都市にアクセス可能。その日の気分に合わせてアバターの着せ替えを楽しんだり、実際の伊勢丹新宿本店の販売員のアバタースタイリストがバーチャルストアで出迎えてくれるなど、「人とのつながりを感じられるお買物体験」を、オンライン上で体感。
ではなぜ、α世代はここまで「フィジタル」を自然に受け入れるのでしょうか。
かつて、デジタルは偽物・架空の空間としてあくまでもリアルの補足的に捉えられ、デジタル化といえば、効率化のために「無駄を省く」ことを意味していました。しかし、α世代にその壁はありません。むしろ、モノを買う、どこかへ行くという物理的な行動に、デジタルの強みを活かした「物語性」や「パーソナライズ」が加わることで、体験が自分だけの特別なものへとアップデートされます。α世代にとってフィジタルは、「デジタルによって、リアルの体験に深み(意味)が増すこと」でもあるのです。そこにあるのは、効率性の享受ではなく、自分の世界がより鮮やかになったという充足感です。
デジタルとフィジカルを等しく扱い、そのことにより生まれる「新しいリアリティ」こそが豊かな体験であるという価値観なのではないでしょうか。
α世代の1つ上のソーシャルネイティブであるZ世代は、アナログからデジタルへの移行期も経験していて、両者の違いを理解した上で使い分けてきました。しかし後に続くα世代を見ていると、彼らの感覚はもっと有機的だと感じます。
「デジタルによって世界の手触りがもっとおもしろくなる」という新しい感覚こそが、これからのサービスを形作っていくのだと日々感じています。テクノロジーが進化するほど、私たちはより確かな「実感を伴うなにか」を探し求め、そこではもはやデジタル的かどうか、は無意味な線引きになっているのでしょう。

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