「Z世代に向けたプロモーションを打ったのに、なぜか手応えがない」「若手社員の定着率を上げたいが、彼らの価値観が多様すぎて掴めない」
いま、多くの企業が直面している可能性の高い、違和感。その正体は「Z世代」という言葉の解像度の荒さに起因しているのかもしれません。
1990年代後半生まれから、2010年代初頭生まれの約15年。ソーシャルネイティブという共通項だけでくくるには、彼らの生きてきた時間はあまりにも変化に富んでいます。生まれた瞬間にiPhoneがあった世代と、学生時代にはまだガラケーを使っていた層が、同じ価値観であると考えるほうが無理があるのかもしれません。
なぜ、いまZ世代の解像度を上げる必要があるのか
マーケティングや組織開発における「Z世代」は、一時期のバズワード的な扱いから、1つの重要なターゲット属性として落ち着きを見せつつあります。しかしその実態は、なかなか複雑です。ここでは、彼らの価値観を無自覚的に分けている分岐点として、多感な青春時代(形成期)の “どのタイミング” でコロナによるパンデミックを経験したか、を起点に考えていきます。
社会に出たばかりだったのか、大学生活や一人暮らしの真っ只中だったのか、まだ中高生だったのか。ライフステージの “どのタイミング”で、非日常が日常になり、そのとき「何を奪われたのか(喪失体験)」。この違いが、彼らの消費行動や仕事へのスタンスを分ける1つの断層になっているのではないでしょうか。

NEW STANDARD THINK TANKでは今回、Z世代を1つのかたまりとしてではなく、コロナ禍という転換点がもたらした「3つの層(Z-Origin/Core /Neo)」として再定義を試みました。
① Z-Origin(Zオリジン)
1995〜1999年生まれ/20代後半

アナログとデジタルを繋ぐ、組織の「架け橋」
いわばZ世代の「長男・長女」にあたる、1990年代後半生まれの層です。彼らは学生時代や会社での新人時代に、コロナ以前の対面文化を身体感覚として体験しています。学生時代にはまだ「みんなでテレビを見る」「Facebookで近況報告」といった文化が残っていたのです。
【インサイト:葛藤とバランス】
飲み会の作法や空気感を知っている彼らは、コロナ禍での急激なリモート移行で「変化への戸惑い」を経験しました。だからこそ、アナログ(対面)の温かみと、デジタル(リモート)の利便性の両方を理解し、その間でバランスを取ろうとする世代です。
SNSにおいてはInstagram全盛期世代であり、「映え」や「承認欲求」といった、他者からの視線を意識する傾向が無意識的に残っているのも特徴です。一方で、裏垢やXでの本音吐露も欠かさないなど、建前と本音の使い分けスキルは、社会人としての適応力にも直結しています。
【刺さる価値観:共感・納得感】
彼らを動かすのは、単なるスペックや効率だけではありません。
「なぜ、それが良いのか」という納得感(ストーリー)と、誰かと感情を共有する共感を重視する傾向にあります。
・ネガティブ価値観:「とにかく効率化」「結果さえ出ればいい」
・ポジティブ価値観:「繋がり」「バランス」「納得できる理由」
今後彼らは、組織においても、上司世代(対面重視)と後輩世代(効率重視)を繋ぐ「翻訳機」としての役割が果たせる、貴重なバランサーになっていくことが期待されます。
②Z-Core(Zコア)
2000年〜2005年生まれ/20代前半

喪失が生んだ、究極の「リアリスト」
いわゆる世間がイメージする「Z世代」の特徴が最も色濃く出ている、2000年代前半生まれの層です。彼らは、入学式、成人式、留学、サークル活動など、一生に一度しかないライフイベントが次々と消滅するのを目の当たりにしました。
【インサイト:防衛と最適化】
「期待しても裏切られる」「夢を見るより、リスクを避けたい」。そんな強烈な青春時代の原体験が、彼らを徹底的な現実主義者(リアリスト)へと変えました。何よりも嫌い、避けたいのは「無駄」と「失敗」です。何かを買う前にはTikTokやXで口コミを検索し、納得いくまで調べ、絶対に損をしないという確信(正解)を得てからお財布を開く傾向にあります。
【刺さる価値観:透明性・実利・タイパ】
彼らに曖昧な情緒的メッセージはほとんど響きません。求めているのは、クリアな情報とメリットです。
・ネガティブ価値観:「とりあえずやってみよう」「夢を見よう」「背中で覚えろ」
・ポジティブ価値観:「失敗しない」「タイパ」「正解」「根拠」
一見すると「冷めている」と誤解されがちですが、不確実な世の中で生き残るために、情報の海から「最適解」を瞬時に見抜く目利き力が高い世代とも言えるでしょう。
③Z-Neo(Zネオ)
2006年〜2009年/10代後半

感性とAIが融合する、次代の「イノベーター」
Z世代の中でもっともα世代に近く、若い層です。彼らにとって、マスク生活やオンライン授業は異常事態ではなく、デフォルト(前提)という感覚があります。デジタルツール(生成AIや翻訳機)を使うことに罪悪感はなく、自分の能力を拡張する相棒として積極的に使いこなします。
【インサイト:解放と没入】
制限だらけの環境が当たり前だった反動で、制限解除後の世界において、リアルな「肌触り」や「没入体験」を渇望しています。
また、彼らはソーシャルネイティブを超えた「AIネイティブ」でもあり、現在進行系でChatGPTやGeminiを自分の能力のようにフラットに使いこなしています、また、学校や会社といった枠組みだけではなく、ゲームや推しで繋がる「界隈(コミュニティ)」に強い帰属意識を持ち、ボーダレスな感性にも繋がっています。
【刺さるキーワード:世界観・共創】
彼らにとって、コスパやタイパ以上に重要なのは、心が動くかどうかになりつつあります。
・ネガティブ価値観:「みんな持ってる」「流行りの」「常識」
・ポジティブ価値観: 「没入」「体験型」「推し」「青春」
完成されたものをただ受け取るのではなく、自分も参加して一緒に盛り上がれるような、「余白」があるコンテンツに夢中になる傾向があります。
新たな3つのZ世代区分「Origin/Core /Neo」
いかがでしたでしょうか?
彼らが世代ごとに「何を奪われたか」と書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、それぞれの環境に適応するために、独自の「武器(強み)」を手に入れたとも捉えることができます。
・Z-Originは、世代間のギャップを埋める「調整力」を。
・Z-Coreは、情報の海から正解を見抜く「目利き力」を。
・Z-Neoは、新しいテクノロジーと感性を遊ぶ「創造力」を。
この3つの属性を見極めることで、Z世代は「謎が多く扱いづらい若者」から、ビジネスを加速させる「最強のパートナー」に変わっていくはずです。

