「二日酔いロマン」ってどういうこと?——Z世代に起きているお酒の意味の変化

「Z世代は、お酒を飲まない」。 ここ数年、そんな言葉を耳にする機会が増えました。
健康志向の高まりや、「ソバー・キュリアス(Sober Curious)」のように、あえてお酒を飲まないライフスタイルの広がりを背景に、若者のアルコール離れは新しい価値観として語られてきました。
しかし2026年、そのイメージに変化の兆しが見え始めています。Business Insiderは、Z世代の74%が過去6か月以内に飲酒しており、全成人の平均に迫る水準まで上昇していると紹介していますし、The Guardianは、TikTokで広がる「二日酔いのロマンチック化」を取り上げました。
しかしこれは「若者がお酒好きになった」という単純な話ではなさそうです。また、上の世代と同じ飲酒カルチャーに戻ったわけでもないようです。 変わったのは、お酒を飲むことの「意味」と、その役割です。
では、なぜ健康志向だったはずのZ世代は、二日酔いまでポジティブに語るようになったのでしょうか。
TikTokでは最近、目の下のクマや乱れた髪のまま、コーヒーを片手に「Hangover Morning(#二日酔いの朝)」を投稿する動画が人気を集めています。
一見すると、「飲み過ぎ」を美化しているようにも見えます。しかし、The Guardianが紹介する専門家の見方は少し異なります。 彼らがロマンチック化しているのは、二日酔いそのものではなく、その二日酔いを生んだ「忘れられない夜」なのです。
友人と夜遅くまで語り合って、笑い、音楽を楽しんだり、普段より少しだけ羽目を外す——。そんな特別な時間があったからこそ、翌朝に訪れる二日酔いさえも、「昨日は最高だった」という記憶の延長として受け止められているようです。
二日酔いは、飲み過ぎたことへの後悔ではなく「最高の夜を過ごした証」として、Z世代のあいだでも語られはじめているのです。
では、なぜそのような価値観が強まっているのでしょうか。 理由の1つに、お酒体験そのものが以前より希少になったことが挙げられます。
コロナ禍以前を振り返ると、お酒は今より少しだけ日常の延長線上にありました。 仕事終わりの一杯、飲み放題の打ち上げ、週末の居酒屋——「今日は飲もう」ではなく、「今日も飲もう」という感覚に近いものでした。お酒そのものが夜の “常連” であり、飲酒の量でさえ「どれだけ飲んだか」が勲章の一つになっていたような時代です。
しかし、Z世代(特に20代後半のアーリーZ世代)は、健康意識の高まりやソバー・キュリアスなどの影響もあり、日常的にはお酒を飲みないトレンドが広がりました。また、物価高の影響で、外で飲むこと自体のハードルも上がっています。 だからこそ、「今日は飲もう」という日は、それ自体が希少なイベント体験になります。
Business Insiderによれば、Z世代はアルコールを購入する際、より高品質でプレミアムな商品を選ぶ傾向があるといいます。また、New York Postも、彼らの価値観を「Quality over Quantity(量より質)」という言葉で表現しています。
ここで重視されているのが「お酒だけ」ではないことも特徴的です。 誰と会うのか。どこへ行くのか。どんな夜を過ごしたいのか。 その体験を特別なものにするために「お酒」が存在しています。
お酒が「最高の夜」をデザインするためのワンピースへと変わりつつあります。
もうひとつ見逃せないのが、ウェルネス文化との関係です。 睡眠の質を記録するスマートリングやジム、プロテイン、腸活、朝活──。SNSには、「より健康に」「より生産的に」「より良い自分になる」ための情報があふれています。
こうしたウェルネス・コアは、多くの人の生活を豊かにしてきた一方で、「常に最適な自分でいなければならない」という見えないプレッシャーも生み出してきました。そんな毎日を送るからこそ、友だちと夜遅くまで喋ったり、時間を忘れて飲み過ぎてしまうような夜は、いつもとは違う「特別な時間」として記憶に残ります。
二日酔いを投稿することで、健康的なライフスタイルを否定しているわけではないのです。 むしろ、「今日は完璧じゃなくてもいい」と思えた夜があったこと、その夜を誰かと共有できたこと、それらを大切な思い出として残しているのではないでしょうか。
Z世代のお酒との向き合い方は、「飲む・飲まない」という単純な比較では説明できません。 変わったのはお酒の意味や、お酒に求めている価値です。
かつて、飲み会では何を飲むか、どれだけ飲むかの比重が高く、それ自体がコミュニケーションの中心にありました。一方で、Z世代にとっての主題は、あくまでも「その夜」です。友人との過ごし方、会話、音楽、空気、その日だけの思い出——。
飲む頻度は減っていても、一度の飲酒体験の「価値」は高くなります。 量より質を選び、「誰と、どこで、どんな夜を過ごすか」を重視していることが読み解けます。
「若者がお酒を飲まなくなった」という見方は、半分合っていて、半分間違っています。 そして二日酔いは、飲み過ぎた失敗ではありません。 忘れたくない夜を過ごした証として、その余韻を翌朝まで持ち帰る「小さな戦利品」になっているのかもしれません。
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