監視社会にNOを。AI時代に注目される「アンチ監視」ファッションとは

スマホやPC上ではCookieを拒否できる権利があり、アプリを使用する際も位置情報をオフにできます。私たちは、Webサイトにデータを提供するかどうかを自分で選択できるようになりつつあります。
しかし「街を歩く私たち」の情報はどうでしょうか?
駅や商業施設、街角に設置されたAI搭載監視カメラは、顔認証だけでなく、年齢や性別の推定、行動分析まで行うようになっています。デジタル空間では「オプトアウト」の選択肢がある一方で、現実世界では「監視されたくない」と意思表示する手段はほとんど存在しません。
世界中でAI監視技術が急速に普及する中、人々が「監視されない権利」を十分に行使できていない現状が指摘される機会は増えつつあります。
そんな中、「ファッション」で監視社会に向き合おうとする新たなムーブメントも生まれているようです。米・カリフォルニア州にある非営利組織「Mozilla Foundation」の記事をもとに紹介します。
そのムーブメントの代表例として、イタリア発のブランド「Cap_able」の事例を見ていきましょう。
このブランドでは、「Adversarial Patterns(敵対的パターン)」と呼ばれる特殊なデザインをニットやパーカーに織り込んでいて、人間には幾何学模様として見える一方、AIの物体検出アルゴリズムには「犬」や「キリン」など、人間とは異なる物体として認識される仕組みになっているそうです。
Cap_ableの創業者でありCEOのラケーレ・ディデロ氏は、その狙いをこう説明しています。
「監視テクノロジーの問題点は、市民が物理的な世界においてオプトアウトする可能性を持たないことです。デジタル空間ではCookieに『イエス』か『ノー』を言えますが、物理的な世界にその選択肢はありません。私たちは、市民が同意を与えるか否かを選択できるような、物理的な保護手段を作りたかったのです」
AI認識の盲点を逆手に取ったこのデザインは、単なる実験的なプロジェクトでもありません。これまでの「アンチ監視ファッション」が実験的で奇抜なデザインだったのに対し、Cap_ableはあくまでも日常で着られるニットとして提案しています。
「AIを欺く服」であると同時に、「着たいと思える服」であること。それこそが、このプロジェクトの新しさです。
「アンチ監視ファッション」の広がりは、単なる技術的なハックにとどまりません。
「監視社会を研究する社会学者トリン・モナハン氏は、こうした衣服を『抵抗の美学化(Aestheticization of Resistance)』と呼び、個人的なパフォーマンスに留まり監視社会の根本的な解決にはならないと批判的な立場をとっています。しかし一方で、この『美学化』には無視できない価値もあります。それは、AIの認識を攪乱する実用性以上に、『監視されることが当たり前になった社会』への違和感を強烈に可視化し、人々に議論を促す点です
実際にCap_ableのセーターを愛用しているアーティストのアンドリュー・マクレガー氏も、「この服を着ることで、自分がどれほど多くのカメラに囲まれているかを意識するようになった」と語っています。彼にとってこの服は、監視システムと戦う武器ではなく、自分自身の人間性やプライバシーを取り戻すための象徴だとも言えるかもしれません。
ファッションは、当然ながら流行を追うためだけのものではありません。ときには、自分がどんな価値観に共感し、何に違和感を抱いているのかを表現するメディアにもなりえます。
1970年代のパンクが既存の権威や価値観への違和感を音楽やファッションで表現(しかもスタイリッシュに)したように、アンチ監視ファッションもまた、AIやアルゴリズムによる「同意なき監視」への違和感を身にまとうカルチャーと言えるのではないでしょうか。
一方で、現状ではこれらの服はまだ高価であり、誰もが手軽に買えるものではありません。しかし、かつてのパンクがストリートから世界を変えたように、このアンチ監視ファッションの思想が広がり、テクノロジーのあり方を問い直す「現代の反骨精神」として大衆化していくのか。その行方に注目が集まります。
デジタルテクノロジーの進化と日々の生活がますます切り離せなくなった今、反抗の形もまた変化しています。アンチ監視ファッションは、AIを拒絶するための服ではなく、テクノロジーと共存しながらも、そのあり方を問い続けるための服です。
それは、権威ではなく、アルゴリズムへ問いを投げかける新しい時代の反骨精神——現代版パンクなのかもしれません。
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