
買う前にはしっかりレビューを読み込み、映画やドラマはなんとなくあらすじを確認してから観る。「失敗しないため」の下調べは、スタンダードになりつつあります。つまり、取り返しがつかない「失敗」は回避したい。
一方で、笑って回収できるくらいの小さな「しくじり」を歓迎するモードは高まっているように感じます。ニュースタ編集部では、Z世代のこの微妙な感覚を「ちょいしくじり」と呼んでみたいと思います。
失敗を避けたい世代が、なぜ「適度なしくじり」を求めるのか。海外で広がる「Kinda Chic」や「フロップ・エラ」というキーワードとあわせて探っていきます。
「ちょいしくじり」とは、評価や人間関係を損なわない程度の小さな失敗を避けすぎず、笑い話や自分らしさとして楽しみ、ときに周囲とも共有する感覚のことです。
前提にあるのは、Z世代にしばしば指摘される「失敗回避」の傾向です。ニッセイ基礎研究所のレポートは、Z世代の消費の根っこに「時間を節約したい」以上に「消費に失敗したくない」という気持ちがあると分析し、ネタバレを確認してから作品を楽しむ行動もその表れとしています。ニュースタ!でも以前、失敗したくないZ世代には「安全な冒険」が刺さると紹介しました。
ただ、失敗を避け続けると、毎日はどこか答え合わせのようにフラットになっていきます。そこで求められているのが、ダメージは小さく、話のネタにはなる「ちょうどいい失敗」ではないでしょうか。
この感覚は海外のSNSにも表れています。2026年夏には、ありふれた日常や弱さを「It's kinda chic to…(〜するのって、ちょっとシック)」と言い換える「Kinda Chic」が広がり(Know Your Meme)、9月にはボツ案やうまくいかなかった挑戦を並べて自分の「フロップ・エラ(しくじり期)」を見せる「My latest flops(最近のしくじり)」投稿が話題になりました(SocialBee)。
日本でもReaplusの2026年上半期トレンド総括が、α・Z世代の変化を「映え」から「リアル」へと整理し、日常の感情や失敗談を共有する文化を挙げています。
・Instagramの「My latest flops」: 「みんな成功を投稿しているから(私も含めて)、私の最新の失敗をどうぞ」という書き出しで、ボツ案や不採用、うまくいかなかった出来事を並べる投稿形式です。成功のハイライトばかりが並ぶフィードへのカウンターとも読めます。
・セレブたちの「Kinda Chic」宣言: 俳優のドリュー・バリモアは「50代でいるのも、ちょっとシック」という趣旨の投稿で、4日間に17万以上のいいねを集めました(Know Your Meme、HOLA!)。リース・ウィザースプーンも「過小評価されるのも、ちょっとシック」と綴っています(PureWow)。年齢や見くびられた経験を、自分の言葉で肯定的に言い換えるスタイルです。
・Vlogアプリ「setlog」: 1時間ごとに2秒の動画を撮り、1日分をVlogにまとめるアプリです。2026年5月には国内App Storeの無料アプリランキングで約1か月にわたり首位を獲得しました(Impress Watch)。撮り逃した時間は黒い画面のまま残り、なんでもない瞬間もそのまま1日の記録になります。大学生125人への調査では約半数が利用していると答え、ラフな日常を親しい友人とだけ見せ合う気軽さが支持されていると言えるでしょう。
ひとつは、完璧さを保つことへの疲れです。15〜24歳の女性を対象にしたSHIBUYA109 lab.の2025年の調査では、「映え」という言葉をよく使うと答えた人は28.3%にとどまり、顔やスタイルが映る写真の投稿に抵抗を感じる人は75.6%にのぼりました。スクリーンショットで拡散されるリスクまで意識しながら発信する毎日では、隙のなさを演じ続けるほど息苦しくなっていきます。
もうひとつは、小さな失敗が共感の入口になることです。18〜24歳を対象にしたZ世代創造性研究所の調査では、79%が「誰もが持っているだらしない部分・ダメな部分」に共感すると回答しました。小さなしくじりは「わかる」を生み出し、お互いの距離を縮めてくれます。
そして見逃せないのが、しくじりの「選び方」です。Z世代は失敗をなんでも晒しているわけではなく、笑って回収できるものを選び、自分で意味づけて見せています。失敗回避とちょいしくじりは矛盾するようで、実は「リスクを自分でコントロールしたい」という同じ価値観から派生したものだと捉えることができます。
一方で、「上手なしくじり方」が新たな正解の型になってしまう危うさも、変化のスピードが早い現代ならではの懸念かもしれません。
日本には、割れた器を漆と金で継ぎ、傷跡を景色として愛でる「金継ぎ」という文化があります。(最近は海外の方にも人気になっているようですね)。粉々に砕けた器は元の形には戻せません。私たちが求めているのは、まさに「継げる程度のヒビ」ではないでしょうか。
失敗が許されにくい空気を感じながら育ったZ世代にとって、粉々になる失敗は怖い。けれど、ヒビひとつない毎日は退屈で、自分らしさも見えにくい。だからこそ、自分の手でしくじりを選び、「こんな私も、私」と語れるように変えていく。つまり、ちょいしくじりは開き直りではなく、失敗との付き合い方を自分で設計する、ひとつのコミュニケーションノウハウではないでしょうか。
ブランドや企業にとっての示唆もあります。完璧な成功体験を約束するだけではなく、安心して小さくしくじれる余白をどう用意できるか。開発中の失敗談を語る、「外れ」まで楽しめる設計にする。「継げるヒビ」をデザインできるブランドほど、これからのZ世代に選ばれていくことが予想されます。
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