「意味的価値」はどのようにデザインするのか。第28回日本感性工学会大会「意味中心設計ワークショップ」レポート

2026/10/28
ニュースタ!編集部

「機能的価値」から「意味的価値」へ。

商品やサービスの本質的な価値が「意味」へとシフトするなか、2026年9月17日(木)、第28回日本感性工学会大会にて特別企画「意味中心設計ワークショップ」が開催されました。

本ワークショップは、東京大学・三菱電機・NEW STANDARDの3者による社会連携講座「意味的価値や社会的価値を生み出すデザインエンジニアリング(SVDE)」の一環として実施されたもので、理論(サイエンス)と実践(クリエイティブ)を融合した90分間のプログラムです。

会場に集まったのは、アカデミアの研究者や企業の研究開発・デザイン担当者など80名以上。チームごとに分かれた参加者たちが「大学のベンチ」という身近なテーマを題材に「意味的価値」の創出と評価に挑みました。

盛況となったワークショップの様子とともに、これからのモノ・コトづくりを変える「意味中心設計(Meaning-Centered Design)」の最前線をお届けします。

なぜ今、「意味中心設計」なのか。「予測する脳」が明かす価値の正体

 「私たちは世界を“そのまま”見ているわけではありません」

東京大学の柳澤秀吉教授は、脳科学と情報理論(自由エネルギー原理・ベイズ推論)をベースに、「意味」が生まれるメカニズムを解説しました。

人の脳は、過去の経験や置かれた「文脈」からあらかじめ予測をつくり、目の前の情報を解釈しています。たとえば、同じ形でも、数字の並びの中では「13」に、アルファベットの並びの中では「B」に見える、といったように「文脈」が変われば、脳の期待が切り替わり、目の前のモノに対する「意味」も変わるのです。

柳澤教授は、この仕組みを価値生成モデル「TVM(Triadic Value Model)」として構造化。任天堂の「Wii」が、ゲームを「個人の達成感(一人遊び)」から「家族の集い(リビングの中心)」へとアップデートしたように、機能や性能の競争ではなく、文脈を書き換えることで新しい「意味的価値」を生み出せることを示しました。

柳澤 秀吉 氏(東京大学大学院工学系研究科 教授)

偶発性に頼らない。「意味」を創出し、未来の受容性を評価するアプローチ

続いて登壇したNEW STANDARD代表の久志尚太郎は、いま市場で起きている「イミ消費」へのシフトに触れ、東京大学との共同研究から開発したメソッド「MEANING DESIGN」を紹介しました。

本メソッドの大きな特徴は、「意味を開発する」と「意味を評価する」をセットでアジャイルに回す点にあります。

① MEANING DESIGN TRIANGLE(MDT)で意味を開発する
BRAND(商品・サービス)、CONTEXT(時代の文脈・トレンド)、INSIGHT(生活者の潜在欲求)の3点を掛け合わせ、「自分にとってどんな意味があるのか」という選ぶ理由(意味的価値)を構造的に導出します。

② 覚醒ポテンシャル理論で未来の受容性を評価する
心理学者D・E・バーラインが提唱した「覚醒ポテンシャル理論」と、それを柳澤教授が数理モデル化した評価手法を活用。新奇性と感情(快〜不快)のバランス(ヴント曲線)を分析し、「先進的だが、ギリギリ受け入れられる(MAYA理論)」という受け入れられる最適水準を定量・定性的に検証します。

新奇性の高いアイデアは、往々にして初期段階で「賛否両論」を起こします。例えば「ポカリスエット」は発売当初、「汗を飲むのか?」と言われることもあったものの、それらが定番化したように、今の評価だけでなく「未来に受け入れられるポテンシャル」を科学的に予測・評価するアプローチが共有されました。

久志 尚太郎(NEW STANDARD株式会社 代表取締役CEO)

また、三菱電機の横須賀佑介氏からは、単なる照明を超えて青空の奥行き感で心に安らぎを与える青空照明「misola」の事例が紹介され、製造業における「機能に意味を重ねる」デザインエンジニアリングの最前線が語られました。

ワークショップのお題は「大学のベンチ」。文脈×インサイトから価値を考える

ワークショップで提示されたお題は、「ベンチに意味を感じていない大学生に向けて、新しい意味的価値を持つ大学のベンチをチームで考えてみよう」です。

参加者はチームごとに、カードとして用意された10の「文脈」(儀式・告白・巡礼・聖域・界隈・セレンディピティなど)と、10の「インサイト」(罪悪感のない休息・助けを求めること・相互承認・距離感など)を組み合わせて考察。

「〇〇な大学生にとって、このベンチは単なる座る場所ではなく、『文脈』を可能にする『意味的価値』である」というステートメントへと落とし込んでいきます。

発表セッションでは、各チームから多面的な「意味的価値」を備えたベンチの提案が行われました。

「先進的だけど、受け入れられるか?」という意味の評価フェーズへ

アイデアが出揃ったあとは、自分たちの案を「覚醒ポテンシャル理論」のグラフ上にプロットする評価セッションへ。

「作り手として見たらすごく面白いけれど、使い手の立場になると新しすぎて賛否が分かれるかも……」

「ありきたりな『退屈な安心感』になっていないか。もう少しエッジを立てて最適覚醒レベル(山の頂点)を狙おう」

自分たちのアイデアが「親近(退屈)」なのか「革新(混乱)」なのか、はたまた「最適覚醒(快)」なのかを問い直す議論が白熱しました。単なる「思いつきのアイデア」で終わらせず、学術的な理論を用いて評価・磨き上げを行うプロセスを通じ、参加者は「意味をデザインする」という感覚をリアルに掴み取っていました。

<意味的価値:発表事例>
・「セレンディピティ」×「自分らしさ」:視線が直接交わらないS字型の構造を採用し、普段は打ち明けづらい本音や相談を自然に行える空間としてのベンチ。
・「継承」×「自分の未来を選ぶこと」:将来なりたい職業の椅子のイメージを具現化し、進路に悩む学生が座ることでこれからの自分を想起・選択する「将来をのぞき見るタイムマシンベンチ」。
・「〇〇界隈」×「自然なつながり」:共通の趣味や関心事を持つ学生が、デジタル上のつながりを超えて緩やかに・かつ偶発的に実社会で存在を認め合える場としてのベンチ。

「意味のデザイン」が、これからのモノ・コトづくりを動かす

ワークショップの最後は、柳澤教授の「プロダクトや研究成果を社会に実装する際、最も大切なのは『それが人にどういう意味や行動変容をもたらすか』というストーリーです。機能だけではなく『新しい意味』を定義することが、これからの産業や社会を動かす原点になるはずです」という言葉で締めくくられました。

「優れているから」ではなく「自分にとって意味があるから」選ばれる時代へ。

NEW STANDARDでは今後も、SVDE社会連携講座とともに「意味中心設計」の最新ナレッジや実践事例を発信してまいります。

SVDE社会連携講座に関する詳しい情報は下記よりご覧ください。
https://melut-fdc.t.u-tokyo.ac.jp/research/svde/

Photo Credit:©︎SVDE社会連携講座

NEW STANDARD株式会社について

NEW STANDARD株式会社は、「新しい意味」を創造し、世界の捉え方を広げる、ミーニング・デザインカンパニーです。2014年の創業以来、累計4,000万人超のユーザーを抱えたメディア「TABI LABO」を通じて、ミレニアル・Z・α世代の価値観やトレンドを調査してきました。その生活者インサイトと、東京大学との共同研究による意味中心設計を掛け合わせ、ミレニアル・Z・α世代に選ばれる商品・サービスの開発や、既存ブランドのリブランディングを支援します。

「イミ消費」時代に、生活者がそのブランドを選ぶ理由となる「意味的価値」を開発・評価し、商品・サービス、ブランド体験、広告コミュニケーションへの実装まで伴走します。

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