ターゲットの解像度を高めるインサイト発見。「TVer」が挑んだ、ティーン層向けコミュニケーション戦略の本質的転換【クライアントインタビュー】

2025/10/06
ニュースタ!編集部

テレビの価値をアップデートし、場所や時間から人々を開放することでコンテンツを身近に自由に楽しむ機会を提供する、民放公式テレビ配信サービス「TVer」。2025年10月にサービス開始10周年という節目を迎える同社は、サービス開始以来、順調にユーザー数を伸ばし、今や私たちの生活に欠かせない存在になっています。

その成長の裏で同社が抱えていた課題は、他の世代に比べて伸び悩むティーン層へのアプローチです。「これまでの情報発信やコミュニケーションの施策では、ティーン層獲得の課題を乗り越えられないのではないか」と感じたTVerが、新たな戦略立案のパートナーに選んだのがNEW STANDARDでした。

デプスインタビューを通じてティーン層にとってのサービスの価値や非利用者が利用したくなる動機を探り、彼らのインサイトから「ティーンにとってのTVerとは?」を分析。「TVerが持つ本質的な価値」と「ティーンの価値観」を紐づけ、コミュニケーション戦略の本質的な転換を行った舞台裏を、プロジェクトの中心メンバーである株式会社TVerの見川様と、NEW STANDARDの鶴田、高田が語ります。

【お話を聞いた人はこちら】

株式会社TVer サービス事業本部 PR部 副部長
見川 佳菜(みかわ・かな)PR代理店にてPRプランニング/SNSプロモーション設計に従事し、株式会社TVerへ入社。TVerの宣伝担当部署にあたるPR部を立ち上げ、現職。アーンドメディア/SNSにおけるプロモーション戦略設計など、TVer配信コンテンツのプロモーション施策全般を担当し、若年層とのコミュニケーション施策を推進。
NEW STANDARD株式会社 顧客体験&​コミュニケーション開発事業責任者
鶴田 雅子​(つるた・まさこ)上智大学経済学部経営学科卒業。英ノッティンガム・トレント大学の空間デザインBA取得。日本航空・LIXILでの営業を経て、コンサル会社で商品開発や外資ITのマーケ戦略に従事。東京2020でローカライズとCRM統合を主導。ブランド/コミュニケーション戦略に精通し、現場視点で牽引。​
NEW STANDARD株式会社 デザインリサーチャー
高田 ジュリア(たかだ・じゅりあ)慶應義塾大学卒業。ライターとして記事執筆やコンテンツメイキングを経て、シンクタンクのデザインリサーチャーとして世の中の潮流を捉えたトレンドレポート作成と分析を行う。現在はデザイン思考を活用したブランド開発に従事し、デプスインタビューの調査設計、実査、レポーティングなどを担当。​​
敬称略、所属・役職はすべて取材当時のものです(2025年9月取材)

サービス好調の裏にあった、ティーン層の利用の伸び悩み
漠然とした悩みから、進むべき道筋を明確化

NEW STANDARD・鶴田:今日はお話しを伺いながらプロジェクトを振り返りたいと思います。改めて、御社が以前から抱えていた課題についてお聞かせいただけますか。

TVer・見川: はい。民放公式テレビ配信サービス「TVer」は2015年の開始以来、ユーザー数も、ご覧いただけるコンテンツ数も順調に増加しています。ただし、サービスが成長する中で、ティーン層の利用動向に関しては「基盤がまだ作れていない」という漠然とした課題がありました。2024年4月にPR部が発足して様々な施策を試みましたが、既存の手法では本質的な課題解決が難しいと感じていたんです。

NEW STANDARD・鶴田:ありがとうございます。若年層マーケティングを得意とする企業は他にもある中で、パートナーとしてNEW STANDARDを選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか?

TVer・見川:実は以前から、ウェブメディア「TABI LABO」が個人的に好きで読んでいたんです。ニュースレターを購読していて、ミレニアル世代やZ世代とのコミュニケーション戦略に長けているというイメージを持っていました。

また、TVerには「テレビを開放していく」というミッションがあり、サービスを通じて新しい価値観や文化体験を創造・浸透させていく役割があります。短期的に利用者を増やすことはもちろん、中長期的な視点でティーン層にとって「TVerは自分のためのアプリだ」と思ってもらえる存在になるための戦略が必要でした。NEW STANDARDさんが掲げる「意味のイノベーション」というアプローチは、まさに私たちが目指す姿とリンクしているように感じたんです。

NEW STANDARD・鶴田:なるほど。プロジェクトの初期段階で、現状の課題を明確化していきましたが、印象に残っていることはありますか?

TVer・見川: そのプロセスがとてもスムーズで、正直驚きました。最初の打ち合わせで、現状の調査データをお見せして、私たちが日々感じている漠然とした悩みをとにかくわーっとお伝えしたんですよ(笑)。次のミーティングでは、それが「ティーンがTVerを習慣的に利用するに至っていない3つの仮説」として言語化されていて、本質的な課題を整理していただけたのが非常に印象的でした 。 雑多な情報から、議論の核となるポイントを3つに絞っていただいたことで、その後のプロセスが非常にスムーズに進んだと感じています。

NEW STANDARD・鶴田: ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。中にいるとどうしてもアレもコレもが課題だと感じてしまいがちです。私たちはクライアントが本当に抱えている悩みの「おへそ」、つまり中心・本質をいかに捉え、言語化し、共通認識を持てるようにするかを大事にしています。

お話を伺いながら、TVer様が元々持っていらっしゃるミッションや独自性と、ティーンを含めたZ世代との間にあるギャップをどう埋め、どう接続させていくか。要するに、どのようにしたら、ティーンがTVerを自分たちの生活圏の中で自然に選べる存在になれるのか ——そこが今回のお題の核だと捉えて整理させていただきました 。

本音を引き出し、インサイトを言語化する「聞く」技術
「ティーン」を一括りにせず、ターゲットの解像度を高める

NEW STANDARD・鶴田:インサイトを抽出する過程で、見川さんにはデプスインタビューにオンライン傍聴という形でご参加いただきましたが、印象に残っていることはありますか?

TVer・見川:まず、話を引き出す“技術”そのものに感銘を受けました。明らかに緊張している参加者もいて、自分の考えをしっかり話してくれるか最初は少し心配だったんです。でも、気づけば、まるで、近所のお姉さんとお喋りしているようなリラックスした雰囲気で、自分の言葉でどんどん意見を話してくれるようになっていて驚きました。

NEW STANDARD 高田: ありがとうございます。今回は10代を対象にしたデプスインタビューでしたので、いかに面接のように感じさせずに、楽しく雑談するような雰囲気作りができるかを意識して設問設計を行いました。大人を前にすると、かしこまってしまったり、「意見を否定された」と感じさせてしまうと、その後に自由な発言がしづらくなる可能性があると考え、インタビューの前半部分では打ち解けやすいように、彼ら自身の好きなことについてたくさん話してもらったんです。

TVer・見川:そうだったんですね!参加者の変化を目の当たりにして、本当に感動しました。

NEW STANDARD 高田:目の前にいるインタビュー対象者を肯定し、共通点があれば伝えながら丁寧に話を聞くことで、徐々に警戒心を解いてもらい、本音を引き出せるように工夫しました。モデレーター(インタビュアー)として相手と信頼関係を築き、本人も意識していなかったような一人ひとりのパーソナリティの部分まで寄り添って深掘りしていくことで、インサイトの言語化に役立てています。

NEW STANDARD・鶴田:ちなみに、TVerでは視聴データ分析や定量調査を実施していますが、なぜ、今回、デプスインタビューをやってみようと思われたのですか?

TVer・見川:元々、アプリ開発の現場では機能改善を目的としたデプスインタビューを取り入れているんですが、コミュニケーション領域ではゼロとは言いませんが、あまり取り組めていませんでした。

定量調査の数字はもちろん参考にしていますが、ただ、どこか「本当かな?」という気持ちも残っていました。選択肢が用意されたアンケートではこぼれ落ちてしまう何かがあると感じていて。「なぜその機能が欲しいのか」「なぜ良いと思うのか」というところまではわからないモヤモヤがありました。今回、ターゲットの生の声を深く聞くことの重要性を改めて痛感しましたね。

NEW STANDARD・鶴田: 具体的にどのような発見がありましたか?

TVer・見川:まず「エクストリームなターゲットを選ぶ」という考え方です。当初は、大勢を把握するためには「多数派の意見を聞くべきだ」と思っていました。でも、好き・嫌いの感情がよりはっきりしている人の意見を聞くことで、これまで私たちが画一的に捉えてしまっていたティーンのイメージが、全く違うものだったと気づかされました。これは大きな学びでしたね 。

私たちの部では、ティーンの皆さんに使ってもらうためには、ティーンの皆さんのTVerについての発話量を上げていくことが重要だと考えていました。でも、今回話を聞いた参加者の多くは、想像と違って、SNSで積極的に何かを発信するタイプではなかったんです。「信頼できる友達がいいと言っていたから見る」「親和性の高いインフルエンサーの推奨が行動に影響する」というように、身近なコミュニティを大切にする価値観が伝わってきました。言うまでもなく、ティーンの中にもアーリーアダプターがいれば、マジョリティ寄りの価値観を持つ子もいる。その解像度が格段に上がりました 。

インサイト起点の戦略を、サービスから「コンテンツ」へ。
TVerが見据える次の一手

NEW STANDARD・鶴田: このプロジェクトを通じて、今後も継続していきたいこと、今後に活かしていきたいことなどがあれば教えてください。

TVer・見川:正直に言うと、まだ施策として形にできたわけではありませんが、このプロジェクトで得た気づきをチーム全体で共有したことで、メンバーの意識が明らかに変わりました。来年以降の活動に向けて、非常に重要な「種まき」ができたと感じています。

継続的にN1の声を拾い続けることの重要性を、チームの共通認識にできたことが何よりの成果です。今回の調査だけで分かった気になってはいけないという危機感も持っています。多様な価値観を持つユーザーの声を聞き、理解する。これは今後も絶対に継続していきたいですし、できることなら、またご一緒させていただきたいです 。

それから、競合サービスとの比較分析を通じて「TVerの独自価値」を言語化していただいたことも非常に役立っています。中にいると気づけない部分を、客観的な視点からTVerの強みとして示していただいた。自分たちだけで考えていたら、絶対にこの結論には至らなかっただろうな、と感じています 。

NEW STANDARD・鶴田: ありがとうございます。今回ご一緒させていただいたTVerのプロジェクトメンバーの皆様がTVerの価値をティーンに届けたいという強い想いがあり、私たちと一緒に走ってくださったからこそ、未来に繋がる成果を残すことができたのだと思います 。

改めて、今後、NEW STANDARDに期待したいこと、一緒に実現していきたいことなどありますか?

TVer・見川:実は最近、放送局さんからも番組の若年層向けプロモーションに関するご相談をいただくことがすごく増えているんです。個々のコンテンツをどう届けるかという視点がより重要になると感じているので、 コンテンツに根差したテーマでのコミュニケーション施策もご相談できたら嬉しいなと思っています 。

NEW STANDARD・鶴田: それはぜひ、一緒に考えていければ嬉しいです。TVerも今年の10月で10周年を迎える節目の年でもありますし、これからもTVer様のさらなる挑戦をサポートしていければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

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