感性と工学をつなぐ——。NEW STANDARD顧問 柳澤秀吉(東京大学教授)が語る「感性設計学」は、どのようにブランドと接続するのか

2025/11/18
ニュースタ!編集部

私たちは、なぜあるプロダクトやサービスを「心地よい」と感じるのでしょうか。その評価は、機能や価格だけでは説明しきれません。そこには、形状や音、触感、情報の見せ方といった物理的な要素と、人の知覚・感情・経験が複雑に絡み合ったメカニズムが存在しています。

東京大学の柳澤秀吉教授は、こうした「感じること」を工学の対象として正面から扱う学問として「感性設計学」を提唱しています。感性をセンスや勘に委ねるのではなく、数理モデルや計算論的神経科学の知見を用いながら、設計のための理論と方法論として体系化しようとする試みです。

本記事では、柳澤教授が2025年のTEDxUTokyoで行ったトーク「感性設計学~プリンキピアの統合」を手がかりに、そのエッセンスと、NEW STANDARDの事業との接点をダイジェストでご紹介します。

そもそも「感性設計学」とは何か

感性設計学は、「人の感性に依拠した要件を、設計に直接使えるかたちで扱う」ことを目的とした学問だと言えるでしょう。対象となるのは、快・不快、安心感、ワクワク感といった感情評価や、「高級そう」「頼りない」といった印象、さらには「自分で操作している感覚」のような主体感まで含まれます。

従来の機械工学では、物理的な性能や強度、効率といった指標が中心でした。しかし、実際の利用場面でプロダクトの価値を左右するのは、それらの指標に加えて「どう感じられるか」です。感性設計学は、物理世界の設計変数(形、音、光、動き)と、人の感性評価とのあいだにある関係をモデル化し、再現性のあるプロセスに繋げようとしています。

その背景にある重要なキーワードが「予測する脳」です。人は、外界からの刺激をそのまま写し取っているのではなく、過去の経験にもとづいて「こう感じるはずだ」と予測し、その予測と現実のギャップを使って世界の捉え方を更新している、と考えられるのです。

錯覚とプリンキピアの統合

視覚や聴覚の錯覚現象は、この「予測とギャップ」の働きを浮かび上がらせます。線が実際よりも長く見えたり、同じ音が状況によって違う音に聞こえたりするのは、脳が文脈にもとづいて積極的に “世界を解釈” している証拠だと言えます。

どのような条件で、どれくらいの予測誤差が生まれ、そのとき人はどのような感情を抱くのか。そのダイナミクスを数理モデルとして記述することで、プロダクトの音や動き、インターフェースへのフィードバック、空間のインタラクションなどを、感情の変化まで見据えて設計する手がかりが生まれます。

TEDxUTokyoのトークタイトルに含まれる「プリンキピア(principia)」は「原理」を指す言葉です。感性設計学では、

・物理現象を支配する原理
・脳・神経系の情報処理の原理
・社会・文化的な意味づけの原理

といった、異なるレイヤーの「プリンキピア」を統合しようとします。これにより、「なぜこの体験は安心できるのか」「なぜこのデザインは不安を生むのか」といった問いに対しても、説明可能で再現可能な枠組みを提供しようとしているのです。

感性設計に紐づくNEW STANDARDのケイパビリティ

NEW STANDARDは長年にわたり、イミ消費だけではなく、意味のイノベーションや意味的価値に着目し、ブランドやサービスの価値構造を設計してきました。プロダクトの形状・UIの動き・言葉・体験導線といった「記号」は、それ自体では価値を持ちません。それらが置かれる文脈(状況・期待・経験)と結びついたとき、はじめて生活者の中で価値、つまり「意味(イミ)」として立ち上がります。

ここに感性設計学の視点が統合されることで、NEW STANDARDが扱う “意味のデザイン” は、ベイズ脳や自由エネルギー原理と呼ばれる脳のモデルと共に、さらに拡張されます。

Kushi, S., Nakaji, K., & Yanagisawa, H. (2024). MEANING GENERATION THEORY: A BAYESIAN APPROACH TO SIGN× CONTEXT= MEANING. In DS 136: Proceedings of the Asia Design and Innovation Conference (ADIC) 2024 (pp. 019-027).

さらに、柳澤研究室が研究を進める覚醒ポテンシャル理論を、デザインプロセスに適用する取り組みを進めてきました。

・「新しさ」がどれくらい受け入れられるのか(新奇性許容度)
・その新しさは快か/不快か(感情価)
・その評価が “今だけ” なのか、“将来ファンになる可能性” があるのか

その結果、新しい意味や価値の受容性を、定性調査や定量調査を用いて分析できるようになりました。そして、従来は難しかった新規性への評価が因果構造として扱えるようになり、ブランドや体験の設計に応用できるようになったのです。

参照)
RELEASE|市場創造型のマーケティングや商品開発の、コンセプト・デザインを検証するための定性・定量調査サービス「POTENTIAL COMPASS」を提供開始

なぜ、既存の調査はイノベーションを見抜けないのか? ブランド戦略を成功に導く「コンセプトやデザインの評価手法」とは。

「感性」を起点に置いた新しい価値(イミ)創造へ

効率や機能がコモディティ化するなかで、企業やブランドにとって差別化の源泉となるのは、ユーザーが「その体験をどのように感じられるか」という感性だと捉えることができます。感性設計学は、その領域を「勘に頼るもの」から「設計できるもの」へ開いていく試みです。

NEW STANDARDは、柳澤教授との共同研究を通じて、感性設計学と意味のイノベーションを融合し、デザイン研究と社会実装を行き来しながら、企業と生活者のあいだにより豊かな循環を生み出していきたいと考えています。

感性設計学やTEDxUTokyoでのトーク内容に関心を持たれた方は、ぜひ動画本編もご覧ください。また、自社のブランド開発やサービス開発にこうした『感性設計学×意味のイノベーション』を用いたアプローチを取り入れてみたい企業/ブランドの担当者さまは、NEW STANDARDまでお気軽にお問い合わせください。

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Top Image by ©︎ TEDx Talks/YouTube

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