なぜ、分かりやすさや機能的価値だけでは共感を得られないのか? 小林製薬が挑んだユーザーインサイト起点の化粧品ブランド開発【クライアントインタビュー】

2025/09/24
ニュースタ!編集部

「“あったらいいな”をカタチにする」というコーポレートスローガンの下、ユーザーの困りごとに寄り添い、世の中にない製品や新しい習慣を生み出すことで新市場を創造してきた小林製薬。その成功を支えてきたのは、製品がもたらすベネフィットをネーミングやパッケージで誰にでも分かりやすく伝える、明快でユニークな戦略でした。

しかし、機能価値をわかりやすく直接的に訴求する勝ちパターンが簡単に通用しないのが化粧品事業です。長年、製品開発の強みを顧客に愛されるブランドへと昇華させる手法を模索していた同社は、今回、NEW STANDARDと協業でユーザーインサイトを起点にしたブランド開発という新しいアプローチに挑みました。

なぜ、小林製薬は、長年の成功体験から一歩踏み出す必要があったのか。NEW STANDARDとの協業プロセスは、何をもたらしたのか。プロジェクトの中心メンバーである小林製薬の室様、山本様、そしてNEW STANDARDの関根、藤戸、渡辺がその舞台裏を語ります。

【お話を聞いた人はこちら】

小林製薬株式会社 マーケティング本部ビューティ・オーラルケアマーケティング部 ビューティーケアG室 佳奈子(むろ かなこ)通販系の化粧品メーカーにて製剤開発を経験後、2015年に小林製薬株式会社 入社。その後も製剤開発に従事し、2024年にマーケティング部へ異動。職掌は変わるも化粧品一筋。現在はメンズケシミンや新ブランド創出を担当。
小林製薬株式会社 ヘルスケア開発部ビューティーケア開発G山本 航平(やまもと こうへい)化粧品メーカーにて研究開発業務を経験後、2015年に小林製薬株式会社 入社。オードムーゲ、バイオイル等のブランドを担当後、洗顔カテゴリを中心とした新ブランド企画や処方開発業務に従事。皮膚洗浄分野における基盤技術開発や学術活動等も行う。
NEW STANDARD株式会社 ブランドデザインスペシャリスト
関根 千恵 (せきね ちえ)ブランド開発・商品プランニングの専門性を軸に、NEW STANDARD株式会社では学術的知見を活用したブランド開発とデザイン思考の浸透を推進。東京大学大学院工学系研究科 柳澤秀吉研究室の共同研究で開発された意味的価値創出に関するメソッドを応用し、体系的な価値創出を牽引している。2025年より同研究室に所属し、感性設計学を活用した意味のイノベーションおよび意味的価値に関する応用実践研究にも従事。意味的価値の探求と社会実装のための実証実験に取り組んでいる。
NEW STANDARD株式会社 ブランドデザインスペシャリスト
藤戸 志保(ふじと しほ)MZ世代に向けたSNSを中心としたCX領域のプランニングや、大手企業の新規事業や新ブランド開発のプランニングやブランディングに従事。NEW STANDARDのリサーチメソッドやインサイト発見メソッドの研究開発にも貢献。トレンドやインサイトを起点としたプランニングや、MZ世代向けのブランド開発が専門。東京大学大学院工学系研究科柳澤秀吉研究室に所属し、感性設計学を活用した、意味のイノベーション・意味的価値に関する応用実践研究にも従事する。
NEW STANDARD株式会社 ビジネスプロデューサー
渡辺 熙己(わたなべ ひろき)ビジネスプロデューサーとして、社内チームと連携しつつ新価値創造を目指す企業様との接点づくりや、ブランド開発プロジェクトの実装フェーズにおける進行管理、予算管理、全員参加型のプロジェクト推進などを担う。

小林製薬の手法をどうアップデートしていけるか? これまでの成功体験が通用しない、化粧品ブランド開発の“壁”

NEW STANDARD・渡辺:本日はお集まりいただきありがとうございます。まず、プロジェクト開始時に小林製薬様が抱えていた課題について、改めてお聞かせいただけますか?

小林製薬・室:一般的な化粧品会社とは異なり、私たち小林製薬が得意とするのは医薬品や日常品などの分野で提供価値を明確に打ち出すやり方です。ネーミングやパッケージで分かりやすく伝えるという強みが、化粧品領域ではなかなか通用しない。

社内では、製品のアイデア創出が活発に行われていますが、機能的なアイデアを製品コンセプトにまとめることはできても、お客様に愛され長く使っていただけるようなブランドコンセプトへ昇華できない。「小林製薬の化粧品はどうあるべきか」ということを長年、模索してきましたが、ブランドの骨格を設計する手法の部分で、いつも壁にぶつかっていたんです。

小林製薬・山本:私も同じ課題感を持っていました。開発の現場レベルで「これからの化粧品は情緒的価値が重要だ」という認識はあっても、それを実現するための具体的な開発プロセス、つまり、どう情緒的価値を定義してコンセプトに落とし込み、最終的なデザインにまで繋げるのかという方法論が一番の課題でした。アイデアから新しい製品を作っても「なぜ、消費者が手に取りたくなるのか?」を説明できない。既存の発想からなかなか抜け出せていなかったんです。

NEW STANDARD・渡辺:ユーザーに寄り添った製品を生み出しながらも、より良い方法論を模索してこられたのですね。今回は、なぜNEW STANDARDを協業パートナーに選んでいただいたのでしょうか?

小林製薬・室:実は複数の企業さんにアプローチする中で、NEW STANDARDさんのご提案は、課題に対するうち手が明確でした。特に、私たちの心に響いたのが、徹底したユーザーインサイト起点というアプローチ。ユーザー自身もまだ言語化できていないようなインサイトを発見し、そこからすべてを逆算して組み立てていく。そのプロセスが非常に明確で、独自の手法として確立している点に魅力を感じました。ご提案の時点で、すでにワクワクしていたのを覚えています(笑)。

小林製薬・山本:過去に様々なコンサルティングなどを受けてきた中で、感覚的なご指摘をいただくこともあったんです。NEW STANDARDさんのご提案は、ユーザーインサイトを起点にするプロセスが属人的ではなく「これであれば、私たち自身がプロセスを理解してブランド開発を進められる」と感じました。自分たちの仕事に落とし込んでゆける未来を描くことができた点が大きかったですね。

小林製薬・室:一番大事にしたかったのは、今回の製品の開発に留まらず、「どう、小林製薬の化粧品開発の手法をアップデートしていけるか」という点でした。「将来的にこの手法を自社の業務と融合していけるかもしれない」と感じられたことが決め手になりましたね。

NEW STANDARD・関根: 私たちとしては、小林製薬様から従来の取り組みや課題を明確にご共有いただけて非常に取り組みやすかったんです。課題の根源は、アウトプットの質だけでなく、そこに至るまでの方法論の不在。私たちがご提案したのは、単にコンセプトを納品するのではなく、コンセプトを“生み出すプロセス”そのものを一緒に作り上げ、体験していただくことでした。

そのため、プロジェクト全体を通して、私たちが何を考え、どういう手順で思考を整理しているのかを、可能な限りオープンにすることを心がけました。ブランドコンサルとして伴走しながらも、最終的には小林製薬さん自身が意思決定できる状態、「自分たちのブランドを、自分たちの手で生み出した」と実感していただけるようなプロジェクト設計を目指しました。

プロジェクトの推進力を最大化したワンチームの化学反応。インサイトを発見し、コンセプトを創造するプロセス

NEW STANDARD・渡辺:業務の進め方は、普段とはだいぶ違ったと思うのですが、今回のプロジェクトで特に皆様の印象に残っている場面はありますか?

小林製薬・山本:顧客インサイト視点の考え方はもちろん、ファシリテーションやチームワークなど、些細な一つひとつが私たちにとっては刺激的で、プロセスの全てが学びの連続でした。ミーティングの度に「この経験は持ち帰らないと!」と感じながら取り組んでいました。

NEW STANDARD 藤戸: 今回のプロジェクトでは、常にフラットな立場で議論を重ねていったのですが、その中で、小林製薬の皆さんのプロジェクトに対する熱意に驚かされました。プロジェクトメンバーの全員が「このプロジェクトを絶対に良いものにするんだ」という強い当事者意識をお持ちなんです。

私たちの問いかけに対しても、臆することなく自分の意見をぶつけてくださる。議論が活性化し、論点が明確になり、意思決定も非常にスピーディー。皆様の姿勢なくして、今回の成果はあり得なかったと断言できます。

NEW STANDARD 関根:プランニングについても細かく分科会を開催させてもらって、皆様に支えてもらった場面も多くありましたね。

​​小林製薬・室:そう言っていただけると嬉しいです。今思うと、フラットな議論の場を作っていただけたことが本当によかった。だからこそ圧倒的なスピード感を維持しながらも、私たちだけでは不可能だった質の高いアウトプットに辿り着けたのではないかと思います。

小林製薬・山本:ファシリテーションの上手さと、徹底したタイムマネジメントも印象的で、常にいい緊張感を保ちながら議論に集中できました。一度だけ、ミーティングが5分オーバーしたのですが、それが珍しいくらいでしたから(笑)

NEW STANDARD・渡辺:ありがとうございます。プロジェクトを実際にやってみて、ユーザーインサイトの導出や情緒価値基軸での開発、コンセプトの評価手法に対して、気づきや新しい発見はありましたか?

小林製薬・室:デプスインタビュー自体の質・レベルが非常に高く、引き出すのが上手いと感じました。特に印象深かったのは、コンセプト提案のワークショップです。デプスインタビューで得られた定性的な発言の数々から、ターゲットとなるユーザー像のインサイトを深掘りして言語化し、意味のイノベーション理論で一気にコンセプト案を導き出していく。

この一連の流れは、もう本当に感動的で素晴らしかったです!バラバラに見えていたユーザーの発言が、インサイトという一本の幹を中心に繋がり、そこからコンセプトという枝葉が生まれていく。ロジックだけでは決して辿り着けないクリエイティブな飛躍がありながら、その背景には緻密な分析と洞察がある。鳥肌が立つような体験で、圧倒されました。

小林製薬・山本:そうそう、あの時、思わず「すげえなぁ…」って声に出てしまったんですけど、オンラインでマイクがオンになってたんですよ(笑)。皆さんに聞こえていて恥ずかしかったんですが、唸るくらいの上質なアウトプットでしたね。

NEW STANDARD・渡辺: 山本さんの“マイクオン事件”ですね(笑)。私も印象に残っています。逆にそう言っていただけて、大変ありがたく光栄に感じました。

NEW STANDARD 藤戸:インタビューでは共感を大事にしながら話を伺っているのですが、インタビュイーのバックグラウンドや個性、その人らしさなど、少し尖った部分を見つけてインサイト分析に繋げることを意識しています。

小林製薬・室:加えて、社内での合意形成が劇的にスムーズになったことも、非常に大きな成果です。これまでの私たちのやり方では、新しいデザイン案などが出てきても、「なぜこのデザインなのか」を感覚的にしか説明できませんでした。

しかし、今回は、インサイトの発見からコンセプト、そしてデザインに至るまで、すべてのプロセスがロジックで繋がっています。そのため、上層部へのプレゼンテーションも自信を持って行うことができましたし、最終的なアウトプットに対しても、関係者全員が強い納得感を持つことができました。ロジックに裏付けられたクリエイティブは、社内を動かす力も格段に強いのだと実感しましたね。

NEW STANDARD・関根: その時々の状況に応じて最適なプロジェクト推進を模索していますが、どんな手法を用いたとしても、最終的にそれを機能させるのは「人」です。我々の提案やプロセスを、小林製薬の皆様が「まずやってみよう」というポジティブな姿勢でしっかりと受け止めてくださった。その信頼関係こそが、プロジェクトを成功に導いた最大の要因だったと思います。まさに「ワンチーム」でした。

「インサイト」の概念を大きく変えた経験が導く未来への学び。小林製薬らしいユーザーインサイト起点のブランド開発へ

NEW STANDARD・渡辺: 最後に、このプロジェクトで今後に繋げていきたい学びはありましたか?

小林製薬・室:今回のプロジェクトを参考に、定性調査とインサイト分析を盛り込んだ開発フローそのものの見直しに、今、取り組んでいるところです。中でも、NEW STANDARDさんのインサイト分析のフレームワークと、ブランド開発の要であるデザインへの接続が非常に優れており、ぜひ、活用していきたいです。

また、ユーザーにとって程よい覚醒度を狙うというコンセプト評価の手法は、私たちに欠けていたものであり、参考にしたいです。私個人の取り組みとして、なるべくプロセスを資料化して社内で取り入れていきたいなと思っています。

NEW STANDARD・関根:覚醒ポテンシャル理論は、先日、弊社のコーポレートサイトに顧問である東京大学教授の柳澤秀吉先生との鼎談記事を掲載したばかりなんです。「適度な覚醒度が快感情を最大化する」という理論ですが、商品開発やブランド開発に関わる方にはぜひ広く知っていただきたいと思っています。

参照:なぜ、既存の調査はイノベーションを見抜けないのか? ブランド戦略を成功に導く「コンセプトやデザインの評価手法」とは。(ニュースタ!)

小林製薬・山本: 今回のプロジェクトを経て、我々の中での「インサイト」という言葉の概念が大きく変わりました。消費者の声やニーズといったレベルのものではなく、本人も気づいていない、行動を突き動かす深層心理の欲求こそがインサイトなのだと腹落ちでき、これまで何となくでしか捉えられていなかったものが、再現性のある手法として理解できたんです。

「“あったらいいな”をカタチにする」というコーポレートスローガンの通り、元々、小林製薬にはN1インサイトを起点に商品開発をするバックグランドがあります。ユーザー起点の処開発を研究チームに浸透させる上でも、このプロジェクトのチーミングを参考にしていきたいですね。

NEW STANDARD 藤戸: インサイトの定義については、我々も改めて専門知識を深めていくために、代表の久志が社員向けに社内勉強会を開催することもあるんです。また、NEW STANDARD独自の新価値創造メソッドを身につける2日間人材研修プログラム 「DESIGN INNOVATION CAMP」というサービスをご提供しており、チーム浸透のお役に立てるかもしれません。

小林製薬・室:今回得た学びや成功体験は、ひとつのブランドだけで終わらせるつもりはないんです。ユーザーインサイト起点の開発プロセスを、他の製品開発にも横展開できればと考えています。将来的には、小林製薬という組織全体として、データやロジックに基づきながらも、お客様の心を動かす提供価値を創造できるレベルにまで引き上げていくのが目標です。今回のプロジェクトは、そのための大きな、そして確かな一歩となりました。

NEW STANDARD・渡辺: 本日は貴重なお話をありがとうございます。引き続き、NEW STANDARDとして皆様のお役に立てることがありそうです。これからもワンチームでよろしくお願いします。

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