「ターゲットのインサイトが見えない」「機能的な価値だけでは、もう選ばれない」。日々の業務で、そんなふうに頭を抱えているマーケターやブランド担当者の方は多いのではないでしょうか。
これまでもビジネスシーンの動機づけやマーケティング、組織マネジメントにおいて親しまれてきた「マズローの欲求5段階」は、人間の普遍的な心理を捉えたとても秀逸な理論ですが、SNSやAIが急速に浸透し、個人の価値観が複雑化した現代においては「マズローの欲求段階だけでは説明しきれない生活者の消費行動」も増えているように感じます。
そこで今回ご紹介したいのが、ミレニアルズ・Z世代(MZ世代)のスペシャリストであるNEW STANDARDと、リサーチ×プランニングのプロフェッショナルであるQOが共同で発表した調査レポートです。
ここで提唱している「現代を代表する9つの欲求段階」は、これからのブランド作りやコミュニケーション設計の大きなヒントになるのではないかと考えています。

マズローを現代版へアップデート。「9つの欲求段階」に再解釈
このレポートでは、マズローの欲求モデルをベースにしつつ、現代社会の文脈に合わせて「9つの欲求段階」として再解釈を試みました。この整理により、現代のトレンドや消費行動への解像度が上がり、分析がしやすくなりました。
では、現代の生活者がどのような「欲求≒心の動き」で消費行動をしているのか、「9つの欲求段階」を高次から順に見ていきましょう。

① 社会貢献の欲求
自分のためだけでなく、社会や地球環境、次世代のために貢献し、高次の充足感を得たいという自己超越的な欲求です。
② 創造・探求の欲求
知的好奇心を満たし、自分の能力や可能性を広げたいというクリエイティブな欲求。新しい学習や起業活動などもここに含まれます。
③ 感動体験の欲求
日常を忘れさせるような、五感を刺激する特別な体験や深い満足を求める心です。
④ 自己確認の欲求
他者からの評価やSNSでの発信を通じて、自分自身の価値やステータスを確立・確認したいという欲求です。
⑤ 自己決定の欲求
誰かに強制されるのではなく、「自分の意思で選びたい」「自分で決めたという実感が欲しい」という欲求です。
⑥ 所属・共感の欲求
孤独感を解消し、価値観の合うコミュニティや「推し」の界隈などで深くつながり、安心感を得たいという欲求です。
⑦ 予測可能性の欲求
先が見えない不安を減らすため、自身の努力である程度コントロール可能な状態や、予測できる安心感を求めています。
⑧ 平穏な心身の欲求
ストレスフルな社会だからこそ、心身を整え、穏やかな状態を保ちたいという強い欲求があります。
⑨ 基盤安定の欲求
衣食住や経済的な安定はもちろん、生存や安全が脅かされない基盤を確保したいという欲求です。
加えて、この9つの欲求はさまざまな事象やトレンドにおいて連鎖していると仮定し、本レポートではさらに「3層の連鎖モデル」として構造化することで、トライブの分析やインサイト分析に発展させることにも挑戦してみました。

調査から見えてきた、今後注目したい「3つの欲求因子」
では、この9つの欲求を今後どのようにマーケティング実務やブランド開発などに活かしていけば良いのでしょうか。
本レポートでは、9つの欲求段階をベースにブランド調査分析を実施。すると、いくつかの重要な因子が見えてきました。

① 生活者の「自己決定の欲求」をデザインできているか
今回の調査を通じて、どのカテゴリーにおいても共通して重要視されているのが「自己決定の欲求」であることが見えてきました。「選ばされている」「買わされている」と感じた瞬間に、現代の生活者の気持ちが離れてしまうことの裏返しとも言えるでしょう。「自分で選んでいる」「自分の意思でコントロールできている」という感覚を、いかにサービスや購買体験の中に組み込むかが「選ばれるブランド」になるための分かれ道となりそうです。
② 機能価値だけではなく「平穏な心身の欲求」にアプローチできているか
日用品や食品など、身近なカテゴリーで特に求められているのが「平穏な心身の欲求」でした 。機能的なスペック競争だけではなく、「その商品を使うことで心が和らぐ」「ストレスから解放される」といった情緒的な価値が、これまで以上に重要な欲求因子になっていることが読み解けてきました。
③ 自社にしかない「感動体験の欲求」を差別化できているか
さらにブランドのファンになってもらい、長く愛してもらうためには、高次の欲求へのアプローチも欠かせません。大小問わず、瞬間瞬間の心を揺さぶるような「感動体験の欲求」は、競合との価格競争から抜け出し、独自のポジションを築くための重要なファクターとなっているのです。
「イミ消費」時代の生活者を「欲求」で捉え直す
AFTER2025に向けて、生活者はますます「モノ(機能)」や「コト(体験」)そのものだけではなく、それらを手にすることで満たされる「欲求(≒自分にとってのイミ)」を求めるようになっていくでしょう。
自社のブランドやサービスは、顧客のどの「欲求」に寄り添えているでしょうか。そして、その欲求を満たすためのインサイトを理解し、ストーリーを適切に届けられているでしょうか。
もし、現在のマーケティングやプロモーションに行き詰まりを感じているなら、一度この「9つの欲求段階」を活用し、ブランドやサービスの価値を見直してみても良いのかもしれません。

