NEW STANDARD THINK TANKでは、日々Z世代の価値観やトレンドを探り、新しい価値(イミ)の調査・研究・発信を行っています。
近年、Z世代という言葉が注目を浴びるようになり、メディアにおいても様々なイメージや切り口で語られることが増えてきた一方で、彼らとのコミュニケーションの難しさや、価値観のギャップに悩む声も少なくありません。
ここでは、Z世代の特徴として紹介されることの多い「ありのままでいたい」「失敗したくない」といった価値観の本質や、企業や組織は彼らとどう向き合っていくべきなのかについて、今話題の書籍『Z世代化する社会―お客様になっていく若者たち』の著者であり、大学にて教鞭をとりながら日々Z世代と向き合う舟津昌平さんとともに考えていきます。
【お話を聞いた人はこちら】
「Z世代は特殊な仕事観を持っている」はウソ?
——最近、Z 世代の働き方や仕事への価値観に対する注目が非常に高まっています。しばしば賛否両論も巻き起こっていますが、彼らの仕事観についてどうお考えですか?
いきなり身も蓋もないことを言うようですが、「仕事の知識も経験値もない若者に、確立された仕事観などあるはずがない」というのが私の結論ですね。
——昔の若者も、今の若者も変わらないと?
はい。大学で担当しているゼミで、ライフワークバランスについて学生と話す機会があったのですが、仕事よりもプライベートを重視したいという学生に、何時までの残業なら許せるのかと聞いてみると「21時」と答えたんです。今どき21時まで残業するのは、相当仕事熱心な人ですし、もはや社会のルールとして難しい職場すらありますよね。
Z世代が特殊な仕事観を持っているというのはよく言われる話ですが、それらは限られた情報の中で作りあげられた偏見だと思っています。はっきり言って若者は商材になるので、それを面白おかしくビジネスにしている方たちがいるのは間違いない。SNSや一部のメディアといった閉じた世界の中で、そうしたリアリティのないものが作られてしまうのは非常に危険なことのように感じます。
——なるほど。彼らの仕事観にこれだけ注目が集まるのは、上の世代がZ世代との接し方に疑問を抱えていることの表れのようにも感じます。
これは、どの時代にも共通する普遍的なテーマだと思います。40年ほど前も、当時の若者は「新人類」と呼ばれ、今の若者と同じように難しい存在として扱われていました。年上の人が若者を理解できないというのは昔から変わらないと思うんです。ただ今の日本は、上司側が色々な意味で自信を失っているんですよね。自分は正しいんだと思えなくなっている。むしろ「自分は正しい」と思っている上司は格好の攻撃対象とされるじゃないですか。価値観が古いとか、偉そうだからダメだとか。
——確かに昔はそんなことはなかった印象です。
それまで上司が持っていた権力やパワーのようなものが現代では許されなくなり、解体されはじめている。しかし普通に考えたら、業界や組織で20〜30年のキャリアを積んでいる方々が自信を持てなくてどうするんだ、という話ですよね。スキルも能力もある上司が、不安になって部下の顔色を伺っているほうが、組織としてよっぽどいびつだと私は思います。
——とはいえ、昨今はミドル・シニア世代の価値観のアップデートの重要性がよく叫ばれますが、若者と仕事をしていくうえでやはりそれは必要なのでしょうか。
確かに変化のスピードが激しい業界だったり、価値観を根底から覆す話になったりすると、ついていけなくなるのは事実だと思います。少し話はズレますが、実は研究者の世界でも、10年くらいあれば研究の手法がガラッと変わってしまうことがあります。大家とされている50〜60代の研究者の方でも、ここ10 年の動向を追えていないと、もはや議論についていけないという状況は起こり得ます。
——企業や社会でも、同じようなことが起こる可能性があると?
そうだと思います。とはいえ、若い世代もはじめは同じように、何もわかっていないんですよ。でも先ほどの話だと、ここ数年真面目に勉強している大学院生が50〜60代の先生より理解できている部分もある、ということは起きる。つまり、変化をどれだけキャッチアップしていけるかですよね。たとえば社会的な価値観においても、中高年層の方々は「結婚しているかどうかを聞くのはNG」といった表層的な部分は断片的に知っているけれど、なぜそれがダメなのか、何が問題なのかはよくわかっていないことがある。よくわからないけどとりあえずやめておこう、となるんですね。そういった意味で近年の急速な価値観のアップデートに関しては、若い世代のほうが敏感でしょうね。
いま、組織マネジメントに必要なのは「プロダクトアウト」的発想
——今後若手のZ世代社員が組織の中核、ミドルを担っていく際に、組織全体や仕事のスタイルはどう変わっていくのか、舟津さんのなかでイメージはありますか?
企業や組織の未来に対して、危機感を抱く部分もあります。製品・サービスの開発手法として「プロダクトアウト(自社ならではのやり方や強みを押し出す)」と「マーケットイン(顧客や市場のニーズに合うものを投入する)」という考え方があるのですが、それに例えるなら、近年の組織のマネジメントは「マーケットイン」に寄りすぎていると感じます。
つまり、自社のやり方に若手社員を適応させるのではなく、自分たちが若手社員に合わせようとするんですね。先ほどの「上司が自分に自信を持てない」という話も、若手社員に過度にマーケットインをする傾向の表れだと思います。多くの企業が「若手社員が嫌がらないかどうか」を非常に恐れていて、新入社員に向かって怒ることをタブーとしたり、1on1や役員面談、メンター制度などをとことん充実させ、過度に若手社員をケアしようとしている。でも、一人ひとりにかけられるコストにも限界があるわけで、このしわ寄せは結局すべて管理職にやってくるんですよね。そうした面倒ごとを引き受けて過重労働をしなければ、上司という役目は務まらないということになる。
これが決定的にまずいのは、そんな状況で管理職になりたがる若者なんていないということなんです。ミドルは組織にとって非常に重要なポジションで、ミドルによって会社が回っている状況ですらあるのに、なり手が出てこなければ組織が回らなくなっていくのは必然でしょうね。
——Z世代の10年後を考えた時に、ミドルとしていかに活躍してもらえる状態にしていくかを、組織全体で考えるべきでしょうか?
そうですね。管理職が罰ゲーム化しているとまで言われるなかで、ひと昔前のようにミドルが活躍できる状況を取り戻すなら、やはり組織の仕組み自体を変える必要があると思います。先ほども述べたように若者はまっさらで無知なので、「うちはこういうやり方だから」と言われれば、わりと素直に信じるんです。企業も上司も、自信を持って「プロダクトアウト」していくことが非常に重要だと感じています。
Z世代の抱える「不安」の正体とは
——今度は、著書でも触れられている「不安」をテーマに深掘りしていきたいです。Z世代は様々な不安を抱えている世代だとよく言われますが、彼らが抱える不安はそもそも何に起因しているのでしょうか。
一つは、アイデンティティに関する不安です。不安は学術界においても昔から議論されているテーマで、昔の人々が抱えていた不安はもっと宗教的なもの、つまり「来世で救済されるかどうか」といった不安だったといいます。ところが社会学者のアンソニー・ギデンズが「存在論的不安」と呼ぶように、現代の不安はようするに「アイデンティティの不安」になってきている。
金間大介先生は最近の若者について「ありのままでいたい」と「何者かになりたい」の2つの欲求を持っていると著書で論じています。これはまさにアイデンティティの問題なのですが、実はこの2つの価値観は根本的に両立しがたいんです。「今のありのままでいることも認めてほしいし、ただ現状を肯定するのでなくいずれは何者かになれるという可能性も肯定してほしい」という、難しいことを求めているんですね。この傾向はSNSの使い方にも表れていて、ゴテゴテにつくられたものや誇張されたものを嫌い、あくまでも普通の日常を映したものを好みます。
——Z世代はいわゆるオーセンティックなものや、飾らないことを重視するといわれますね。
自然体であることを重視すると同時に、それでいて自分は特別な存在だということも見せたがる。学生いわく「イケてるけどイタくはない」というちょうどいいポジションに立ちたいんですね。そのためにものすごい細やかさや気遣いをもってSNSを使っているんです。でも、それはやっぱり不安につながりやすいですよね。常に周りをウォッチして、自分がどういうポジションにあるかを考え続けなければならないので。
もうひとつの不安は、やはり経済的不安や社会不安です。日本の経済状況は良くないのだと叩き込まれている若者は、将来に希望を持てず、その不安が浸透しきってしまっている。例えば近年「こんな世の中でも、あなただけは救われる方法がありますよ」という売り文句のビジネスが人気ですが、「自分だけが生き残る」ことを考えはじめると、とたんに周りを信頼できなくなる。周りを搾取対象として見てしまうし、同様に周囲の人も自分を貶めようとする人たちに見えてくる。でも結局はその人たちと共に生きていかないといけないわけで、そうした個人化の吹聴もまた、周りとの関係を不安にさせる一因だと思います。
Z世代を不安にさせないための過度なケアが逆効果に?
——Z世代はこうした不安と、どう向き合っていくべきなのでしょうか?
私が思うに不安というのは、わりと自然に解消していくものだと思うんです。たとえば「最近の若手社員は電話に出られない」とよく言われますが、突然見知らぬ人と電話するのは私でも不安になります。でも、実際はやってみればなんとでもなるというか、そんな大したことではなくて。そういうふうに、不安って根拠なく生まれたりなくなったりするものなんですよね。ところが若者はそのリスクを極度に恐れてしまって、不安と対峙するチャンスを失っているし、会社側も若者を不安にさせないように過敏になっているわけです。
しかし大学での経験から思うのは、若者は本当に適応力があって柔軟なので、若者を信じて負荷をかけてあげれば、わりと短いスパンで慣れるものでもあります。若者がそうした不安で悩んでしまう多感な時期なのだとしたら、配慮を行うよりむしろ「それって別に大したことないんだよ」と言ってあげるほうが不安は消えるのではないかと思っています。
——そういった意味では、若者を過剰に心配しすぎなのかもしれませんね。最近のサービスやプロダクトでも、 Z世代の不安を解消したり、失敗させないようサポートしたりするものが一定の支持を集めていますが、それらが逆に彼らの不安を助長させている側面もあるのでしょうか。
とても的確な指摘だと思います。受験にせよ、就活にせよ、キャリア選びにせよ、「失敗しない〇〇」というキャッチコピーは人気ですよね。「とにかくあなたが失敗しないように、嫌な気持ちにならないようにサポートします」というのは、丁寧にケアされているので、気持ちがいい。一方で、若者が無自覚にせよ敏感に感じとっているのは「失敗したらダメなんだ」ということなんです。これだけ失敗しないようにケアされると、逆に「失敗したらどうなってしまうんだろう?」と不安になる。なぜそんなに失敗を怖がるのかというと、失敗しないためのものに溢れすぎているから、といえるかもしれません。本当に重要なのは、失敗しないための方法をたくさん与えてあげることではなく、失敗したとしても意外となんとかなるんだ、と教えてあげること。失敗を許容することですよね。
「グラウンデッド」な、地に足をつけた議論の重要性
——そんなZ世代や、Z世代を取り巻く社会は、今後どう変わっていく必要がありますか?
私はやっぱり、もっと地に足がついた話をしなければいけないと思っています。「失敗しない〇〇」も「ありのままでいながら何者かになりたい」も、人々が無垢に肯定している価値観は結局のところ非現実的です。もっと現実に即して考えないといけないし、実際には何が起きているのかということに敏感にならないといけない。
新刊の『Z世代化する社会』は、学生の話をとても丁寧に聞きながら書いたつもりです。しかしZ世代に関する情報の中には、どう考えても創作のように見えるものや、ビジネスや商材として都合がいいから書いているようなものも多くある。そうした適当なコンテンツが溢れることで、それが現実だと誤認してしまうんですよね。ネットの世界では、根拠の不確かなものから事実をでっちあげることが簡単にできてしまいます。
例えば「Z世代はクリエイティブで、確固たる自分を持っている」なんて話も、そう言われ続けるとZ世代自身も「自分らしさがないといけないのかな」「他の人はみんなあるのかな」と勘違いして不安になる人が出てきてしまう。
我々はそうしたフィクションを無垢に肯定するのではなく、もっと「日常感覚」を大事にすべきなのではないかと思います。目の前の人に目を向けてみたら「そんなに大したことはないし、別になんとかなるだろう」と感じられると思う。極端に誇張された情報ではなくて、もっと日常の感覚を信じてもらえたらいい、と考えています。
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本記事の続編「最近のZ世代大学生の特徴とは?」を、
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