日本の識字率は99%以上。世界的にも誇れる数字だ。
けれども、誰もが文章を「正しく理解できる」かといえば、ちょっと違う。識字率と理解力は、イコールじゃない。
NEW STANDARDの社内でも、この問題は実感を伴って顕在化している。Slackやメールで当たり前のように報連相が行われるなかで、「ちゃんと読んでいるはずなのに伝わっていない」という齟齬が日々起こる。「もっと丁寧に読もう」「わかりやすく書こう」といった注意喚起では、もはや追いつかない。
同様の問題を抱えている組織は、きっとたくさんあると思う。
📒「読める/読めない」はグラデーションである
社内でメンバーにヒアリングしてみると、「読むのが苦手」「読めない時がある」という声が意外に多いことがわかった。やはり、組織として取り組むべき問題ということだ。
ここで、重要なのは“読めない=能力が低い”ではない、ということだ。
「読める時もあれば、読めない時もある」。その揺らぎは、誰にでも起こる。スマホでの流し読み、複数タスクの同時進行――現代は“文章を間違えて読む条件”が揃っている時代でもある。
だからこそ、NEW STANDARDはこの問題に努力論ではなく「科学的アプローチ」で向き合うことにした。
📒ベイズ脳で読み解く「読めない現象」
まず、文章を読めないとはどういうことだろう?ざっくりと挙げると、こんなところだろうか。
・読み飛ばしや誤読が多い
・読んでも意味がつかめない
・集中力が続かない
こうした状態を脳科学の観点から見ると、「ベイズ脳*」における予測の偏りだと考えられる。
人間は文章を読むとき、過去の知識や文脈から“予測”を立てて読んでいる。ところが、予測に頼りすぎると、肝心の“観測(目の前の文字情報)”を軽視してしまう。その結果、誤読が生まれる。
つまり文章が読めないというのは、予測依存が強すぎて観測精度が落ちている状態なのだ。必要なのは、「予測を抑えて、観測を強化する」というアプローチとなる。
※ベイズ脳とは、人間の脳が “確率論的(ベイズ的)推論” に基づいて世界を理解・予測しているという認知科学の考え方
💡「予測制御」は難しい、ゆえに「観測強化」へ
「予測を抑えて、観測を強化する」。このなかには、予測制御と観測強化の2つのアプローチが含まれている。
社内ディスカッションをすすめていくうちにわかったのは「予測制御」は極めて難しいということだった。「先入観をなくそう」という精神論に終始してしまい、実務的なTipsに落とせない。
一方で「観測強化」は、より具体的な方法を提示できそうだ。議論を通じて挙がったのは、下記の3つ。シンプルだが有効そうではある。
⭐️観測強化のための3つのTips
1.指やカーソルで追いながら音読する
飛ばし読みを防ぎ、観測を強制的に増やす。小声でも口を動かすだけでもよい。
2.一文で要約する
どんな長文にも、たいてい「言いたいこと」は一文で収まる。この記事なら「NEW STANDARDが“読めない問題”に科学的アプローチしている」だ。
3.あら探しモード で読む
ちょっと意地悪に「どこが間違っているか」という目線で読む。校正する姿勢が、予測ではなく観測に注意を向けさせる。
これらがどこまで有効かは、実際に社内で試してみなければならない。我々も検証していくつもりだ。
だが、これらのTipsを社内でインストールする前に、まずは「読めない人がいる」という前提を共有することからはじめていこうと思う。
📒「読めないこと」は、特性にすぎない
そもそも我々は「全員が読めるようになること」をゴールにはしていない(“読める”のレベルを測るのも難しい)。
むしろ、文章を読むのが苦手という特性を持つ人がいる、という前提に立ちたい。
それは、プレゼンが得意な人、資料作成が得意な人がいるのと同じこと。“日本人は誰でも読める”という思い込みのほうが、実は問題なのかもしれない。