【クライアントインタビュー】「透明なビール」は、いかにして「ホップサワー」というブランドに辿り着いたのか(アサヒビール)

2024/06/14
ニュースタ!編集部

2024年春、アサヒビールは、ビールでもチューハイでもない完全な新カテゴリーである「アサヒ ホップサワー」の限定発売を開始。NEW STANDARDでは、そのローンチに至るまでの約2年を並走させていただき、ブランド開発からパッケージデザインまで担当しました。

本プロジェクトにおいては、当社独自のメソッドである「BDX(ブランドデジタルトランスフォーメーション)」* を活用し、新たなカテゴリーにおいてもユーザーインサイトを探りながらブランド開発プロセスを進めてきました。

ここでは、クライアントとして本プロジェクトに参画いただいたアサヒビール株式会社 マーケティング本部 新ブランド開発部 担当副部長の渡邊航太郎さんをお迎えし、NEW STANDARDのブランド&ビジネス開発グループ 事業責任者の白鳥秋子とともに振り返りたいと思います。

*「BDX(ブランドデジタルトランスフォーメーション)」とは:ミレニアルズ及びZ世代のインサイトをとらえたパーパスドリブンな顧客体験(=CX)を体現する新規ブランドの立ち上げや既存ブランドの再創造を、オン/オフ統合してワンストップで支援するサービス

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目指したのは「完全なる新カテゴリー」における「意味づくり」

——改めて、今回の「アサヒ ホップサワー」にて実施したBDX施策の概要を教えてください。

NEW STANDARD(以下:NS)白鳥:これまでもアサヒビールさんとは何度かブランド開発のお仕事をさせてもらっているのですが、じつは今回、なかなか変わったスタートでした。初めからシーズと呼ばれる液体の候補が3つあり、それぞれ異なる開発者の方から候補として挙がってきている状態でした。結果的にはそのなかから1つに絞り、ターゲットやインサイトを探り、新しい意味やBI(ブランドアイデンティティ)をつくり、パッケージングまで落とし込んでいった、というのが今回のプロジェクトです。

アサヒビール(以下:AB)渡邊:そもそも既存のものとはまったく違う新しいものにチャレンジしたい、というところから本プロジェクトは始まっていて、当初のシーズの呼び名は「透明ビール」などでした。この時点では「シーズがある」というだけで、マーケットはどうなのか、ターゲットは誰なのか、どういうインサイトでどういうメッセージングにするのか、などはまったく決まっておらず、言葉を選ばずに言えば、相談している我々としても「意味が分からないお酒」だったわけです(笑)。そういう “まだなにも決まっていない状態” から意味づくりをしていくなら、相談すべきはNEW STANDARDさんだろうとお声がけしました。

NS白鳥:ありがとうございます(笑)。そもそも “まだ市場にないもの” についてユーザーインサイトを探っていくのはとてもチャレンジングでした。まず私たちが進めたのが、お酒そのものに対するイメージや捉え方を深堀りしていくデプスインタビューでした。多くのお酒が好きなエクストリームユーザーの声を通して見えてきたことが、みんなそれぞれ既存のお酒に対して何かしらのペインを抱えているということでした。たとえば「ビールは好きだけど多くは飲めない」とか「ハイボールは飽きてしまうが惰性で飲んでいる」とか「甘すぎて糖が多いチューハイは罪悪感がある」といったものです。また、昨今シビアになりつつあるお酒の社会的イメージについてもユーザーインタビューを繰り返しました。「お酒は好きだけど、チャラいとかだらしないとか言われるのがイヤで隠している」や「本当にお酒が好きだからこそ胸を張って言えるようにソムリエの資格を取った」という人まで、さまざまな声に耳を傾けることで、このプロジェクトで目指していくべき「新カテゴリーの在り方」を模索しました。

※アサヒビール社とNEW STANDARDがBDXで活用していたフレームワークを一部抜粋

——なるほど。「意味づくりをしていくならNEW STANDARDだろう」と感じていただけたポイントはなんだったのでしょうか?

AB渡邊:私たちは通常、コンセプトは自分たちで考え、パッケージデザインなどから代理店さんやデザイナーさんに相談するのですが、今回はコンセプトから一緒に考えてくれるパートナーが必要でした。

NS白鳥:プロジェクト当初に3つの味を飲ませていただいて、とても可能性と面白さを感じました。3つともこれまでに味わったことがない味だったのですが、それをどう絞り込んでいくのか、誰に届けると良いのか、このお酒にどういう意味づけをすると良いのか、という提供価値の仮説を立てていくことから始めました。

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BDXの強みは「いま、市場にないもの」でも仮説が立てられること

——今回のブランド開発プロジェクトを通じて、ブレイクスルーになったポイントはどこでしょうか?

AB渡邊:開発の便宜上、当初「透明ビール」という名称で呼んでいたのですが「これが良くないのではないか」と言われた瞬間でしょうか。「透明ビール」と呼ぶことによって議論や視野がそこから抜け出せなくなり、あるとき「これはホップを使ったサワーである」と捉え方をスイッチしたことで一気に考え方が広がり、チャンスを感じるようになりました。NEW STANDARDさんと進めていて良かったなと感じるのは、こういった「意味のイノベーション」を生み出すメソッドをお持ちのところです。

NS白鳥:まったく新しいカテゴリーのブランド開発だからこそ、既存の具体的なメタファーに引っ張られすぎないように注意しました。つい「白ブドウっぽい」とか「スパークリングの白っぽい」などで表現してしまいがちなのですが、それがギャップや誤解を招いたり、そのイメージから脱却できないきっかけになってしまうことがあります。一方で抽象的すぎると、ボヤけて伝わらなくなってしまう。どのファクトで、またはどの粒度感を軸にして伝えるのか、いつも以上に丁寧に進めました。その際、NEW STANDARDでは「記号×文脈=意味」というフレームワークを用いながら整理していきます。今回も、記号をどのように置き、既存の文脈をどのような新しい文脈にすると、これまでとは異なる新しい価値(イミ)になるのか、ディスカッションを続けました。

AB渡邊:実際、ここでは書ききれないほど紆余曲折あり、近年稀に見るほどの苦労プロジェクトで「これなら売れそうだな」と思えるまでは時間がかかりました。そういう意味では「ホップサワー」という新カテゴリーは、生活者にとって「わかんないけど、なんかわかる」という絶妙なニュアンスとしてアプローチできたかなと感じています。

※アサヒビール社とNEW STANDARDがBDXで活用していたフレームワークを一部抜粋

新カテゴリーのブランド開発において大事なのは「プロトタイプの幅」と「統合」だった

——今回実施したブランド開発プロセスについて、デプスインタビューの内容など、具体的に教えていただけることがあればお願いします。

NS白鳥:約2年のプロジェクトのなかで、通算8回、のべ30名の方にデプスインタビューを実施しました。プロジェクトの前半では1回あたり8名ほどの情報感度の高いエクストリームユーザーにインタビューさせていただき、後半に行くにつれ、3名、1名とターゲットを絞り込んでいきながら、インサイトや試飲した際の声を探っていきました。私たちのBDXというプロセスでは、クリエイターの属人的なインスピレーションに委ねるのではなく、徹底してユーザーと丁寧に向き合うので、多くの仮説や方向性をプロトタイプできるのが特徴的です。それゆえの大変さももちろんあるのですが(笑)、今回のように「そもそも意味づくりから始める」というプロジェクトにおいては特に効果的だったと感じます。

AB渡邊:NEW STANDARDさんのデプスインタビューは、人選がとても魅力的だなと感じることが多く、いつも刺激をもらっています。数多くのインタビューを進めていくなかで、「この方だ」と思えるN=1の方も見つけることができ、「罪悪感の解消」というキーワードが見えてきたタイミングが重要だったと思います。それは、カロリーや糖質といったスペックの話だけではなく、情緒的な捉え方としてある女性の方から出た「ホップサワーのほうがビールやチューハイよりも罪悪感がない」という言葉でした。これは面白いな、と。私自身も毎日ビールを飲んでいますが、ホップサワーなら2本以上飲んでも許される存在なのかもしれない……缶を開けるときのプシュっという感覚が軽い気がする……ということを体感し、新しい存在になり得るかなと。

NS白鳥:新しい意味づくりを見つけていくことはなかなか根気が必要なのですが、私たちのBDXプロセスでは「プロトタイプの幅が持てること」と、もう1つ特徴があります。それが、意味づくりなどのブランド開発領域から、パッケージデザインなどのCXクリエイティブ領域まで統合してプロジェクトを進めていけることです。一般的には、そこで担当会社や担当者が代わることが多いと思うのですが、私たちはクライアントも含めてワンチームで進めました。つまり、プロジェクトが進んでいくうちに「あれ?こんな方向性で良かったんだっけ?」のような齟齬が起きることなく、紆余曲折ありながら、それさえも常にクライアントと共通認識を持ちながら進めることができたと感じています。

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誰ひとり部外者にしない、ミーティングやワークショップ時のファシリテーション

AB渡邊:先ほど白鳥さんから「統合」という話がありましたが、それはプロジェクトの進め方にも感じていて、当初とても大人数で始まったんですよ。商品開発から宣伝から研究部署、デジタルマーケティングのチームまで、NEW STANDARDさん含めると15人くらいいたんじゃないかなと思います。その大所帯で「まだ意味が曖昧なお酒の新しい意味づくり」をするわけですから、普通に考えて難易度が高いはずなんです。ですがNEW STANDARDさんはワークショップのなかでもうまく全員の意見を聞き、議論を進めていただきました。みんなが意見を出せるファシリテーションをしてくれたのは本当にありがたかったです。その後、BI(ブランドアイデンティティ)確定後の少人数体制になっても、発散と収束をメリハリつけて進めていただけたなと感じています。

NS白鳥:ありがとうございます。いくつか工夫しているポイントがあり、たとえば最初にチーミングのための懇親会を実施させていただき「クライアントと向き合う」というより「ワンチームで横並び」でアイデアを出していけるような空気感を醸成しました。ワークショップの際も、誰かひとりの意見に引っ張られないように、全員分の付箋やムードボードを使いながらみんなのイメージを共有していくなど丁寧に進めました。また定例の際には「チェックイン」という、会議に対する心理的ハードルを下げるアイスブレイクタイムを冒頭に設けていて、その雑談からチーム全体の距離感を近づけていくような工夫もしています。あとは長期のプロジェクトでは「フライト」という、途中経過で振り返り、参加メンバーがどんな気持ちなのか正直に共有してもらう機会も設けています。

AB渡邊:とにかく読後感がいいんですよね。通常、大所帯でミーティングすると、何人かは消化不良なメンバーが生まれると思うんです。ただNEW STANDARDさんとの打ち合わせは、そうはならなかった。

「意味が分からないもの」の本質的な意味を、一緒に明らかにしていくプロセス

——苦労を一緒に乗り越えてきたんだな、という信頼感がお二人の言葉から強く感じられます。今後、NEW STANDARDにさらにこんなことを相談してみたい・依頼してみたいなどのイメージがあれば教えてください。

AB渡邊:そうですね……やはり今回「意味が分からないもの」の意味を一緒に考えていくのがとても楽しかったので、次もやはりコンセプトが想像つかないものや難しいお題を持ってきたいですね(笑)。実際、新しいカテゴリーへトライしたものって、そもそも世に出ないまま終わることもたくさんあるんです。そんななかで、こうして形になり、期間限定発売ではあるものの多くのお客さまに好評をいただいて、いろいろな感想やご意見が聞けるのはとてもありがたいことだと思っています。

NS白鳥:私たちにとっても「新カテゴリー」における意味づくりはとてもチャレンジングだったんですが、本当に最後まで諦めなくて良かったなと感じています。ぜひまた一緒にプロジェクトを進められることを願っています。

——今日は貴重なお話をありがとうございました。

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