2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直す──。そんなテーマでスタートした本連載。第12回は、「目覚し時計」や「思考のスパン」などの価値のアップデートを紹介しました。
私たちの社会はいま大きな変化を迎えており、気候変動やパンデミックなど、様々な課題を世界規模で共有しています。従来の「当たり前」が通用しない中、より良い世界や社会を構築するための、新しい基準や価値観が生まれています。
そんな新しい基準や価値観を理解し、従来の価値を捉え直してアップデートするフレームワークが、とても重要になっています。それは、あらゆる事象に「意味のイノベーション」をもたらし、私たちの社会や暮らしをより良いものにしてくれる最初の一歩だからです。
さらに、2020年代は「イミ消費」という消費傾向があり、単にモノを消費するのではなく、そこに含まれる「イミ・価値」に消費者は対価を払っていると言われています。今後のブランドがどのようなイミや価値を提供するのか、その価値観のアップデートも急務でしょう。
今回は、「ネガティブなひと」から「都市のつくり方(都市設計)」まで、2020年代の新しい基準や価値観の変化を紐解いていきます。
職場の同僚として一緒に働くなら、明るく前向きで、柔軟な思考を持つ……そんな、“ポジティブな人”を選びたいと多くの人が考えているのではないでしょうか。しかし、アメリカでの研究結果によると、マイナスな存在として忌避されがちな“ネガティブな人”がチームにいることも、プラスの効果につながるのだといいます。
問題点をクリティカルに突き止めたり、情報や要素の良し悪しを判断したりする際に“ネガティブな人”は長けているとされており、組織が多様であることは、より多くの視点や強みを取り入れることができることを意味します。
『多様性の科学』という書籍でも指摘されているように、画一的な組織には「死角」が必ず生まれます。組織における多様性というと、つい言語や国籍といったものが浮かぶかもしれませんが、本質的なのはそこではありません。日本の組織においても、こうした“ネガティブな人”を活かす組織開発について解説した書籍もあり、参考になるでしょう。今の組織で埋もれてしまっている多様性をどう活かせるか? 見直してみる余地はたくさんありそうです。
関連記事:【研究結果】ネガティブな人がいた方が、チームの創造性は高まる(TABI LABO)
関連書籍:多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織(ディスカバー21)
関連書籍:会社ではネガティブな人を活かしなさい (集英社新書)
「修理する権利(right to repair)」に関する話題を目にしたことはあるでしょうか。アメリカでは2021年に法制化が進み、2021年10月には米Microsoftが、そして11月には米Appleが、ユーザー自身が自由に修理をできるようにマニュアルを提供したり、内部部品や修理ツールを販売したりすることを発表しています。
これまで壊れた電子機器といえば、破棄するか、メーカーや指定の修理業者に高額の修理費を払って修理するしか方法がありませんでした。高度な産業化・工業化によって、何かをつくる/修理することが、ユーザーにとって非常に困難になっていたのです。その権利を取り戻そうとする動きが、欧米を中心に高まっています。この権利が認められることによって、消費者は自由に、かつより安価に電子機器を修理できるようになりました。
メーカー側は、安全な起動を保証できないとしてこの動きに反発をしていますが、それでも今後、「修理する権利」は重要なトレンドとなりそうです。特にハードウェアはライフタイムバリューの観点で語られることが少ないですが、ユーザーに「修理してもらう」ことを重要な接点と捉えたとき、中長期的なCX(顧客体験)設計の必要性が出てくるのではないでしょうか。
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着なくなった衣類を、みなさんはどう処分していますか? 思い切ってゴミ袋に入れますか?まだ着られるものであれば古着屋などに買い取ってもらったり、フリマアプリを介して再流通させたりするでしょうか。
しかし一度は再流通させた古着もいつかは着られないものとなり、リサイクルするにしても、資源に戻すまでのプロセスで大量の水やエネルギーを使うことが指摘されています。そんなジレンマを解消してくれそうな第三の手段が、「土に還る素材」を使うことでした。
ブラジルで開発された画期的な生分解性の化学繊維「Amni Soul Eco」は、通常であれば分解されるのに何十年もかかるところ、36ヵ月=3年ほどで土に還るのだそう。こうした素材レベルでの発想の転換で、業界で長く問題視されている衣類の廃棄問題や、リサイクルのジレンマも解決していくかもしれません。
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イタリアの都市・ミラノが発表した、「The Cambio Network」と呼ばれる大規模自転車ネットワークの構想。2035年までに、全長750kmに及ぶ自転車ルートのネットワークを整備し、ミラノの人口の86%を自転車ルートから1km以内に収める計画なのだといいます。そのネットワーク周辺には、病院や学校、企業の80%が包摂され、多くの市民がそれらのサービスにアクセスしやすくなります。
欧州ではフランスなどでも同様に、自転車を中心とした都市計画が進められています。パリ協定で定められた温室効果ガス排出削減に向けた側面のほかに、人びとの暮らしにどのようなメリットがあるのでしょうか。
街が自動車中心でなくなることによって汚染や騒音が減り、住民はより安全に暮らすことができるでしょう。どこにでもアクセスしやすい構造の都市設計になれば、自転車や徒歩で行動をする人が増え、市民の健康増進や医療費の削減にもつながるかもしれません。人が散策しやすい街になれば、買い物や飲食などでお金を使う人が増え、地域経済も循環するでしょう。これまで見過ごされてきた公共スペースの利活用が進み、暮らす人にとって有益なコミュニティが生まれることも期待できそうです……と、メリットが多そうな自転車中心の都市設計。日本でもこうした構想が実装されるといいですね。
関連記事:パリ協定目標達成へ向けて!ミラノの自転車ネットワーク構想(TABI LABO)
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米VCのSeven Seven Sixは、投資先の創業者に対して、投資金額の2%を「創業者個人の成長」と「家族のケア」のために“追加で”投資することを発表しました。創業者の多くが、資金を自身や家族のためではなく、事業のために費やしてしまうことを危惧し、事業成長のための資金とは別に、彼らをサポートするための資金を提供するといいます。
経営者は得てして孤独になりやすく、さらに自身や家族のニーズを後回しにして心身を壊してしまう危険性はつきものです。しかし、そうなってしまっては事業そのものが立ち行かなくなってしまう。そのため、投資家が起業家のメンタルヘルスをサポートすることは理にかなっているように思えます。事業資金とは別に拠出するという点も、重要なポイントでしょう。
また、起業家自身がこうしたサポートを受けることによって、従業員へのケアに対する意識も高まり、長期的な組織の成長に好影響を与えることも期待できます。変化の多いVUCA社会において、レジリエンスを育む機会はますます重要になってきます。成果や成長に資する仕組みとしてメンタルヘルスサポートを捉えることが、企業にも求められるのではないでしょうか。
関連記事:The Seven Seven Six 2% Growth & Caregiving Commitment(Seven Seven Six)
人々を代表する人物……例えば映画やコミックのヒーローでも、現代のヒーローは多様な人種や個性をもつキャラクターが描かれています。以前であれば、白人で正統な英語を話す、背の高い男性が人々を“代表する人”でした。
「Representation Matters」(代表は大切だ)というムーブメントが、アメリカの一部で起こっていることをご存知でしょうか。とある少年がディズニー映画を観ていた際、自分にそっくりな黒人の少年が主人公であったことに喜んでいる様子を、両親がSNSに投稿。「#representationmatters」というハッシュタグとともに、アメリカ中に拡散されました。この投稿に込められた想いは、自分と同じようなバックグラウンドを持つ登場人物がロールモデルとなり、見る人に多くの影響を与えるから、代表となる人のイメージは大切だというものでした。
子どもたちにとって、ロールモデルがいないことによって、「自分は△△だから、XXにはなれない」という思い込みを持ってしまうかもしれません。フィクションの世界であっても多様なロールモデルの姿を描くことは、そのキャラクターとバックグラウンドを共にする多くの人たちを勇気づけ、実際にまだ見ぬ可能性の扉を開くことに繋がるかもしれません。多様な人が多様な場所で真に活躍する世界は、こうしたところからも始まるのですね。
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