「大人向けのレゴ」に学ぶ、価値創出の技法…2020年代の新しい基準で捉え直す vol.11

2021/12/16
ニュースタ!編集部

2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直す──。そんなテーマでスタートした本連載。第10回は、防災やメンズ脱毛などの価値のアップデートを紹介しました。

私たちの社会はいま大きな変化を迎えており、気候変動やパンデミックなど、様々な課題を世界規模で共有しています。従来の「当たり前」が通用しない中、より良い世界や社会を構築するための、新しい基準や価値観が生まれています。

そんな新しい基準や価値観を理解し、従来の価値を捉え直してアップデートするフレームワークが、とても重要になっています。それは、あらゆる事象に「意味のイノベーション」をもたらし、私たちの社会や暮らしをより良いものにしてくれる最初の一歩だからです。

さらに、2020年代は「イミ消費」という消費傾向があり、単にモノを消費するのではなく、そこに含まれる「イミ・価値」に消費者は対価を払っていると言われています。今後のブランドがどのようなイミや価値を提供するのか、その価値観のアップデートも急務でしょう。

今回は、オーガニック野菜から女性の生理期間まで、2020年代の新しい基準や価値観の変化を紐解いていきます。

<オーガニック野菜>
高いお金を払って買うもの→コミュニティで育て、収穫するもの

近年、健康志向の高まりとともに人気が上昇しているオーガニック野菜。無農薬で育てられるそれらの野菜は、手間暇がかかっている分、小売店では高めの値段設定となっています。

一方、アメリカの都市郊外では、大規模な都市農園をコミュニティで運営し、無農薬でいつでも自由に収穫できる「フード・フォレスト」と呼ばれる都市農園システムがあります。同農園は、「フード・デザート」と呼ばれる、新鮮な食料へのアクセスが難しいエリアに住む方々を助けるコミュニティとしての取り組みです。近隣住民や自治体、パートナー企業などがコミュニティとして関わって運営し、無料で提供しています。

そこで収穫できるものは、小売店に並ぶような規格品ではないかもしれないません。しかし、こうしたコミュニティガーデンが都市の中に増えていくと、そこに暮らす人々の間で新しいつながりが生まれたり、新しい相互扶助のかたちが出来上がったりと、副次的な“収穫”も多く期待できそうです。

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<高級ブランドの価値> 希少価値の高い素材を使用→環境に優しい素材を使用

入手困難な希少種の毛皮、世界で数人しかいない職人が織った布地……高級ブランドが高級ブランドたる所以は、そのブランドやデザイン性だけでなく、こうした希少価値の高い素材をふんだんに用いていることにもあったはず。

しかし近年のメゾンコレクションにも、変化が起きています。毛皮の使用を止めると公表するブランド、そして、サステイナブルな「再生素材」を用いたコレクションを発表するブランドが続々と登場しています。単なる再生素材というだけではなく、非動物由来のサステイナブルで再生可能なバイオベースの原料を用いるなど、画期的なアプローチも見て取れます。

この動きにはやはり、環境配慮が行き届いたブランドを支持して購入したいという、ブランドのもつ「パーパス(存在意義)」を重視する消費者の意識の変化と、その影響力の大きさを感じます。どれだけ「機能」や「体験価値」が一流であっても、パーパスが不在のブランドやサービスは選ばれなくなってしまう。「イミ消費」の時代とも言われる2020年代、今後、あらゆるジャンルでこうした変化が進んでいくのは間違いないでしょう。

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<成功>富を独占→富を社会に還元

2021年、「メリトクラシー(能力主義)」に関する話題を多く耳にするようになりました。地位や富といった「成功」は、個人の努力だけの結果ではない、エリートと呼ばれる人々は謙虚になるべきだ、という指摘です。故に、「成功」によって得た富や権力を専有するのではなく、社会に還元する「ノブリス・オブリージュ」のような発想がこれまで以上に重要視されています。

たとえば、デザイン支援ツールを開発し、世界で最も価値の高いスタートアップの1社とされる「Canva(キャンバ)」の創業者夫妻は、自分たちの持ち分となる資産のほぼ全てを慈善活動のために寄付すると発表しました。自分たちの経済的「成功」には興味がなく、むしろ生まれ育った場所や社会的経済地位、スキルの有無に関わらず、世界中の人たちが機会を得られるようにするための責任を感じていると話します。

「ノブリス・オブリージュ」のような思想は昔からあるとはいえ、世界規模で格差が拡がっている今こそ、Canvaの創業者たちの行動は重要性を増しています。また、そうしたアクションをとる企業は多くのユーザーから支持されていくでしょう。企業の「存在意義(パーパス)」と、それに伴う行動が社会の課題解決に寄与し、世界規模の格差が解消されていく。Canvaの創業者たちの行動からは、これからの支持される企業の条件が見えてきそうです。

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<デジタルデバイス> 読書の妨げ→読書をサポート

子どもにとってデジタルデバイスといえば、SNSの見すぎを誘発するものとして、読書の妨げになると考えられているのではないでしょうか。

「アマゾン」が提供するAIアシスタント「アレクサ」には、​子ども向けの“読み聞かせ機能”が搭載されています(有料オプションのAmazon Kids+に加入で利用可能)。アレクサに「読書の時間!」と伝えると、指定した本を読み聞かせてくれるだけでなく、子ども自身が読み上げる際には上達を褒めたり、単語などがわからず詰まってしまった際にはヒントをくれたりするのだそう。

読書や読み聞かせには、そのアナログな体験や親との関わり合いに価値があるとする見方も根強くあります。しかし、もはやデジタルなくしては生活ができない時代に生きる子どもたちにとって、「デジタルデバイスとのふれあい」そのものも、重要な体験になってくるかもしれません。一概に「妨げ」としてみなすのではなく、もはや「前提」として体験を設計していく発想は、ほかのさまざまな分野にも活かすことができそうです。

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<女性の生理期間> つらい一週間→自分をケアする一週間

世界最大の化粧品会社「ロレアル」と、世界中で展開している生理管理アプリ「Clue(クルー)」が、「生理周期が肌にどんな影響を与えるか」を研究するためにタッグを組みました。ロレアルは女性ホルモン周期を考慮したスキンケア習慣・用品の開発を目指し、Clueは、公式サイトの百科事典に月経周期と肌の健康に関するコンテンツを公開していく予定です。

これまではピルや鎮痛薬を飲むなどの対策を取りつつ、我慢して乗り切ることが当たり前だった生理期間(前後を含む)。しかし、つらいことを前提とした上で、心身が心地よいと思える対策を取ったり、いつもより自身を労る期間にしたりと、堂々と自分をケアする期間と捉えるとどうでしょう。

程度の差はあれ、女性なら誰でも直面するバイオリズムの周期。これをポジティブに捉え直してみると、彼女たちへの新しい寄り添い方が見えてくるはず。その時、消費者としての彼女たちは、より心身に優しく、前向きな意味をもつものに対価を支払いたいと思うのではないでしょうか。

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<レゴ> 子ども向け→大人向け製品も拡充

子どもから大人まで愛されるブロック玩具の「LEGO」は、近年マインドフルネスの観点からも大きな注目を集めています。そんなLEGOが、大人向けの公式特設サイトをオープン。『TABI LABO』でも紹介した「サステイナブルなボタニカルコレクション」や「実際に演奏できるグランドピアノ」、「アンディ・ウォーホル、ビートルズなどの壁掛けアート作品」といった、本格的な創作を楽しめるアイテムが揃っています。

また最近では、「男の子向け」「女の子向け」といった性別表記を今後一切用いず、公式サイトでも性別による検索をできなくするという方針を発表しました。

プロダクトやサービスにおいて、それまで対象としていた年齢や性別を広げていくことに挑戦すると、そのもののもつ新しい価値や意味に気づくことができるかもしれません。そのプロダクトやサービスを使いたいと思っていても「対象年齢」や「対象となる性別」から外されていると、触れる機会を得にくいこともあります。特に子ども向けの製品であれば、親が「購入しない」という判断をしてしまうこともあるでしょう。

それまで対象としていなかったユーザーに一度視野を拡げてみると、新しい価値に気づけたり、新しい市場を開拓できたりと、そのプロダクトのもつ「意味」を再解釈することも可能でしょう。たとえば、「100歳が遊ぶXXってなんだろう?」といったように、極端な発想が、イノベーションにつながることもあるかもしれません。

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