2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直す──。そんなテーマでスタートした本連載。第13回目では、「壊れた電子機器」や「都市のつくり方」などの価値のアップデートを紹介しました。
国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)策定が採択された2015年から、年を追うごとに世界の方向性を指し示すアジェンダが、日本の社会に、企業やブランドのコミュニケーションを通して私たちの暮らしまで、浸透し始めています。
また、新型コロナウイルスに伴う感染症(COVID-19)によって、私たちが生きる社会は大きな変化を迎えることになります。その世界において重要なのは、いま現在、世界中で生まれている新しい基準や価値観をまずは理解すること。そして、既にある価値を変えようとするのではなく、新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すフレームワークが鍵になると考えています。
今回は「プラスチック製品」から「卵子凍結や不妊治療のサポート」まで、2020年代の価値観を紐解いていきます。
ご飯を食べる場所として、私たちの生活に欠かせない飲食店。その多くは料理の提供を主な目的として営業しています。では、飲食店の役割は料理の提供だけなのでしょうか?現在では、そんな問いを起点として人々が集える場所としての飲食店の価値に注目し、コミュニティづくりに特化した飲食店が生まれています。
吉祥寺駅にある「喫茶おおねこ」は毎週水曜日、朝8時から12時までの4時間だけ営業する店舗です。店主の鈴木さんは週イチ4時間営業の狙いとして、「お客さん同士が会える確率が高まること」を挙げています。限られた時間で店舗を訪れるお客さんは次第に顔馴染みになり、「ここに来たら誰かと会える」と期待して店舗を訪れるようになるそうです。営業時間を短くすることにより、「手の届く範囲のモノをもっと大切にしたい」という鈴木さんのポリシーに沿った、人々が居心地のよく集えるカフェが生まれました。
パンデミックやそれに伴う新しい生活様式の中でも、「人と会いたい」という欲求は普遍的なものです。そんな欲求を汲み取り、人々が集うための場所を都市の中に少しずつでも取り戻していくことが、私達のより豊かな生活に繋がるはずです。また、そのための場所は飲食店だけに限りません。「コミュニティづくりに特化する」という視点から小売店などの価値を再解釈していくと、まだ気づいていないビジネスチャンスにつながっていきそうです。
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レジ袋やコンビニ弁当、ペットボトルなど生活の至るところで利用されているプラスチック製品。そのどれもが「使い捨て」を前提に作られており、環境に大きく負担をかけるとして問題視されています。生産にも廃棄にもCO2が排出されているほか、海に廃棄されるプラスチックは自然に分解されることがなく、海洋汚染を深刻化させます。
そんなプラスチック製品に対する認知を変えるべく、「D&DEPARTMENT PROJECT」は、プラスチック製品のロングライフデザインの考え方を表現する新プロジェクト「Long Life Plastic Project」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、「Plastic Products can be lifelong companions if you care for them.(プラスチック製品であっても一生モノになり得ます。あなたが大切にすればね。)」というメッセージのもとに、経年変化を楽しめる「プラスチックマグカップ」の販売を行っています。
経年変化の考え方には注目が集まっており、たとえばエシカルファッションブランドの「Aasha 」も、再生する樹皮から採取され、化学薬品などを使わずにできるコルクを素材に、経年変化を楽しめる財布の販売を行っています。経年変化といった時間軸の中で私たちと「もの」との関係性を捉えることによって、環境負荷の少ない持続可能な社会につながっていくはずです。
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「動物の権利」を巡る歴史は古く、紀元前の哲学者たちの時代から積極的な議論が交わされてきました。そんな中、現在では多くの国の法律において、動物は基本的に「器物」として扱われています。法律上、動物については権利義務の帰属主体となることはできないのです。
しかし、2021年10月、オハイオ州の南部地区地方裁判所は、カバを「人間」として認めました。コロンビアで暮らす120頭ほどのカバたちが、法を行使する権利を認められたのです。その他にも、トルコでは「動物の権利法 (Animal Rights Law)」が制定され、動物を虐待したり故意に殺したりした場合、「犯罪者」として半年から4年の懲役刑が科されることになるなど、動物への権利が認められるようになってます。
動物と人間とのフェアな関係性を考えると、私たちの生活や価値観は大きく変化するはず。例えば、都市計画を考えると、従来のように人間中心の名のもとに自然を破壊していくことは否とされ、都市の中に動物が住める環境を整備することが求められます。また、動物愛護の観点が進んでいけば「食肉」といった行為も未来においては「野蛮なもの」と捉えられるかもしれません。動物を権利を持つ存在として捉えていくと、私たちのライフスタイルは大きく変化していきそうです。
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卵子凍結や不妊治療など妊娠に向けたサポートを受けるためには、多くの費用が掛かると言われています。自治体によっては補助金が出るものの、200万前後が必要です。
そんな中で、株式会社メルカリは多様な人材が活躍できる環境をつくるため、「卵子凍結支援制度」導入を行いました。妊活サポートの一環として、卵巣刺激、採卵、麻酔、凍結保存、検査など卵子凍結に関する費用200万円をサポートします。
メルカリの他にも、従業員が福利厚生の一環として不妊治療を受けられる「Carrot Fertility(キャロット ファティリティー)」という企業向けサービスなども登場しています。ユーザーである従業員は提携している病院で、費用負担を減らして不妊治療を受けることができるそうです。
企業として妊娠に向けたサポートを導入することは、子どもが欲しいと考える従業員の抱える負担を軽減することに繋がります。従業員一人ひとりの人生における主体的な選択をサポートするような「企業の福利厚生」が、今後はスタンダードになっていくのではないでしょうか。
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ファミリーコンピューターからプレイステーション、ニンテンドースイッチまでTVゲームは長らく人々の心を魅了し、娯楽として楽しまれています。そんな「遊ぶもの」としてのゲームの枠組みを超え、現在では「稼ぐもの」としてのゲームに注目が集まっています。
海外では、優勝賞金が30億円を超える大会が多数開催されるなど、ゲームを使った競技であるeスポーツが盛り上がりを見せており、ゴールドマン・サックスによると、その市場規模は2022年には3000億円超に達するとも言われています。
さらには、プレイヤーやそのプレイヤーにアイテムを提供する人がゲームをプレイすることでトークンを稼げる「Play-to-earn」という考え方にも注目が集まっています。例えば、Sky Mavisの提供するAxie InfinityのようなNFTゲームのプレイヤーは、自身のキャラクターをレベルアップさせることで、お金を稼げます。
テクノロジーの発展により、「稼ぐもの」でなかった行為からも金銭的な利益を得られるようになりました。ゲームをすること以外にも、毎日の移動や通勤・通学でマイルがたまる「Miles」や、Web3について学ぶことでトークンを稼げる「RabbitHole」というサービスも生まれています。日常のさまざま行為に付随して「稼げる」ようになるとすると、次はどのような行為がその対象になっていくのでしょうか。
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歴史上「国防」という言葉は、国外に存在する敵が行う自国への侵略への対抗手段として、軍事的手段を行使する国家活動を意味してきました。しかし、サイバー空間が発展した現在、「国防」はその意味を拡張しています。
2022年1月、スウェーデンが、現代における脅威に立ち向かうため「スウェーデン心理防衛庁(The Swedish Psychological Defence Agency)」を設立したことを発表しました。Forbesは、「外国政府からの偽情報に対抗するため」設立したと報じています。学術界や軍、メディアと協力し、国内の地域や企業、団体に支援を提供するといいます。背景には、昨今話題となっているフェイクニュースや情報操作への対策があり、同庁は「誤解を招くような情報は不安を煽り、憎悪や疑念を高め、社会をより脆弱にする可能性がある」と語ります。
2022年2月から始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻においても、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を発表しているように見せかけた偽動画がFacebook上に投稿されるなど、多くのフェイクニュースが出回っています。戦場はもはや戦地などの実空間だけではなく、情報空間も含まれる「ハイブリッド戦争」となるなかで、物理的な脅威だけではなく、心理的な攻撃/フェイクニュースに対する対策がより一層大切になっていくでしょう。
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