ここ数年、インテリアやライフスタイルの文脈で熱い視線を注がれているキーワードの1つが「Japandi(ジャパンディ)」です。
ジャパンディは、「Japanese(日本)」×「Scandinavian(北欧)」を掛け合わせた造語で、日本の「侘び寂び」と北欧の「ヒュッゲ(Hygge)」が交差して生まれた概念です。
・侘び寂び: 不完全なものや、経年変化に美しさを見出す日本独自の哲学。
・ヒュッゲ: 心地よさや、親しい人との温かな時間を大切にする北欧の精神。
ジャパンディ・トレンドの変遷
ジャパンディ(Japandi)という言葉を世に広め、現在のトレンドのきっかけとなったのは、特定の個人などではなく、複数の文化的背景とデジタルメディアの相乗効果によるものだと言えるでしょう。
1. ジャパンディの土壌:150年前のデンマーク人クリエイター
ジャパンディの「概念」そのものの火付け役は、19世紀後半に日本を訪れたデンマークのデザイナーや建築家たちです。1850年代、日本が鎖国を解いた直後、北欧のクリエイターたちは日本のミニマリズムと職人技に感銘を受け、自国のデザイン(デンマーク・モダンなど)に取り入れ始めました。ここから150年以上続く関係が、ジャパンディの土壌を作りました。
2. アイコンとしての確立:Instagramとライラ・リートベルゲン(Laila Rietbergen)
「Japandi」という造語を現代のアイコンとして確立させたのは、SNSの力も大きいでしょう。特にオランダのライラ・リートベルゲン(@japandi.interior)は、世界中にその視覚的イメージを投げかけました。彼女の著書『Japandi Living』はジャパンディ・トレンドの1つのバイブルとなっています。
3. トレンドの加速:2020年のステイホーム
ジャパンディがニッチなデザイン用語から「世界的な社会現象」へと一気に燃え広がった最大のきっかけは、2020年の新型コロナウイルスによるロックダウンでした。外出が制限され、世界中の人々が自宅をいかに心安らぐ場所にするか、真剣に考え始めたのです。理既存の明るくライトな北欧スタイルと、静かでストイックな日本スタイルの中間点を求め、Google検索で「Japandi」のボリュームが前年比で数倍に跳ね上がりました。
そして現在、無印良品やHAYなどのインテリアブランドの台頭により、ジャパンディの勢いは続いているのです。

ジャパンディを構成するインテリア・アプローチ事例
ジャパンディは、単に和室に北欧家具を置くことではありません。現代の住まいにジャパンディの哲学を落とし込む際は、以下のような要素がポイントとなります。
1. 低重心な視線が生む開放感
日本文化の床に座るスタイルを取り入れ、家具の背を低く抑えます。具体的には 、脚の短いローソファや床に近い位置で生活するステージベッドなどで天井を高く感じさせ、視覚的な圧迫感を排除することで、狭い日本の住環境でも精神的なゆとりを生み出します。
2. 触感にフォーカスした素材のレイヤード
肌に触れるテクスチャーで心地よさを構築するのもジャパンディの1つです。オーク材の滑らかなテーブルにザラつきのあるラフな陶磁器を置いたり、リネンのカーテン、ジュートのラグ、和紙の照明なども例として挙げられます。均一な素材にはない五感の刺激があり、マインドフルな状態が期待できます。
3. 不完全さを愛でる空間設計
ジャパンディでは、整えられたカタログのような空間ではなく、不完全さを美として捉えます。例えば、左右対称を崩したレイアウトや一輪挿しの植物、壁の漆喰の塗りムラなどもその事例に挙げられます。「完璧でなければならない」というプレッシャーから解放され、ありのままの自分でいられる安心感を与えてくれるのです。
MZ世代の価値観やメンタルヘルスと「ジャパンディ」の関係性
なぜMZ世代はジャパンディのスタイルに惹かれるのでしょうか。そこには、従来の所有による自己顕示に加えて、精神的な安定という価値観の出現があります。
常に「いいね」や通知に晒されている世代にとって、家や持ち物は単なる機能ではなく、神経系を休ませるためのシェルターのように、乱れた神経系を鎮めるための場所です。ジャパンディのインテリアは視覚情報が少なく、脳のリラックスを期待させてくれます。
また、環境問題への意識が高いMZ世代にとって、トレンドを追いかけて使い捨てることはストレスにもなります。単に安価なものを買って使い捨てるのではなく、背景にストーリーがあり長く愛せるものを選んだり、天然素材を使い年月とともに味わいが増すジャパンディは、現代の倫理観と一致し、長く寄り添えるサステナブルな選択でもあります。
NEW STANDARDリサーチャーの視点
ジャパンディは単なるインテリアトレンドではなく、メンタルヘルスに対する意識の変化という大きな文脈の中にあります。2025年現在のMZ世代は、情報のオーバーロードや経済的不透明感に対し、防衛本能に近い形で快適さと簡素さを求めています。ジャパンディは、視覚的なノイズを削ぎ落とし、自己を調律するための空間をプロデュースする方法なのかもしれません。
従来のミニマリズムが「持たない美学」というストイックなものであったのに対し、ジャパンディはより情緒的で自分に甘んじることを許す「慈愛的」な新しいウェルネスの形とも捉えることができます。消費者がブランドに対し、機能ではなく心の安定につながる無形の価値を求めるようになったことが背景にあると言えるでしょう。
これからのブランドが提供すべき価値も、利便性を越え、ユーザーの精神状態をニュートラルに戻す調律の場へと変化していくのかもしれません。


