現代のMZ世代を語るうえで、注目されているキーワードがあります。それが「Maybe Later(また今度)」です。
これは優柔不断な引き延ばしや、無気力さを表す言葉ではありません。相次ぐ社会の混乱や物価高騰、そして激変する労働環境のなかで、若者たちが自分たちを守るために編み出した、合理的で賢明な生存戦略を表す言葉だと捉えることができます。
今回は、デロイトが世界44ヶ国・2万人以上を対象に実施した最新の意識調査「2026年 グローバル Z世代・ミレニアル世代年次調査」のデータを参考に、この「Maybe Later」の背景にある若者たちのインサイトに迫ります。
なぜすべてが「また今度」になるのか?
「Maybe Later」という言葉が最も顕著に現れているのが、結婚、出産、住宅購入といった、かつて「人生の王道」とされてきた重大なライフイベントの局面です。
同調査によると、Z世代の55%、ミレニアルズの52%が、現在の経済的状況を理由にこれらの主要なライフイベントを先送りしていると回答しています。その背景を見てみましょう。
・「その日暮らし」の常態化: 両世代の47%が、毎月の貯蓄が困難な「その日暮らし(paycheck to paycheck)」の状態で暮らしています。
・届かないマイホーム: Z世代の51%、ミレニアルズの40%が「家を購入する余裕がない」と答えており、さらに約7割(Z世代69%、ミレニアルズ64%)が、住宅価格の高さや物件の有無が自分のキャリア選択や勤務地に直接影響していると述べています。
5年連続で「生活費の高騰」が彼らの最大の懸念事項となっていて、まずは今日・明日を生き抜くための「安定」を確保することが最優先された結果、大きな投資や長期のコミットメントが必要なライフイベントがすべて「Maybe Later(また今度)」へと回されているのです。
出世も「Maybe Later」。牙を抜かれたわけではない若者の野心
この「また今度」の波は、プライベートだけでなくキャリア形成の領域にも押し寄せているようです。
「今の会社で早く出世して、管理職や役員になりたいですか?」という問いに対し、「リーダーシップ職に就くことが最優先のキャリア目標である」と答えた若者は、わずか6%。かつての出世競争の価値観から見れば、一見「野心のない若者たち」に映るかもしれません。
しかし、彼らがリーダー職を敬遠する本当の理由は、現在のマネジメント層の働き方にあります。彼らがリーダー職を躊躇する主な要因は以下の通り。
・ストレスや燃え尽き症候群(Burnout)への懸念(Z世代50%、ミレニアルズ49%)
・過度な責任の押し付け(Z世代50%、ミレニアルズ48%)
・ワークライフバランスの崩壊(Z世代41%、ミレニアルズ46%)
一方で彼らは出世そのものを嫌っているわけではないようです。現に、キャリアの「いつか(長期的)」の時点であれば、7割以上がマネジメントや役員職に挑戦したいと考えています。 ただ、「今の持続不可能な働き方のままリーダーになるのは、リスクが高すぎる。だから、環境やサポートが整うまでは『Maybe Later(また今度)』」と、戦略的にブレーキを踏んでいるのだと考えられます。
急速な昇進よりも、自分の心身を守れる「着実な進歩(steady progress)」を好むのが彼らのスタンダードになっているようです。
「Delay(遅延)」ではない。自分の軸で選ぶ「Discernment(見極め)」へ
デロイトのChief People & Purpose Officerであるエリザベス・フェイバー氏は、この現象を次のように総括しています。
「このレポートが物語るのは、単なる『遅延(Delay)』のストーリーではなく、『見極め(Discernment)』のストーリーである」
若者たちは、社会や大人が押し付けてくる「従来のタイムライン(〇歳までに結婚し、〇歳までに家を買い、〇歳までに管理職になる)」を盲目的に信じることをやめました。それは、自分たちの親世代が過度なストレスで燃え尽きたり、経済的な荒波に揉まれたりする姿を間近で見てきたからでもあるでしょう。
彼らは、自分の人生のタスクを見極めて、sequencing(順序立て)しているようです。まずは自分のスキルを磨き、メンタルを安定させ、 強固な土台を作る。その準備が整ってから、本当に大切な決断をすればいい。これが「Maybe Later」の本質だと言えるでしょう。
企業や社会に求められる、新しいスタンダード
もし企業や社会が、このMaybe Later世代を「やる気がない」「責任感がない」と切り捨ててしまえば、近いうちに深刻な人材不足と組織の硬直化に直面することになります。なぜなら、彼らは若いうちの役職こそ望まなくとも、「自分たちには組織や社会を変える力がある」と信じている世代でもあり、AIなどの新しいテクノロジーを柔軟に使いこなす戦力だからです。
これからの社会や企業に求められるのは、彼らに従来の直線的なキャリアパスを強制するのではなく、以下のような新しい基準を用意することだと考えてみましょう。
・「インフラ」としてのウェルビーイング:メンタルヘルス対策やデジタル疲労(通知の多さによるストレス)への配慮を、福利厚生ではなく「業務を回すための必須インフラ」として捉え直すこと。
・柔軟で多面的な評価:縦への急速な昇進だけでなく、横への異動や、スペシャリストとしての貢献、副業(サイドジョブ)を通じたスキルアップなど、多様な成長のグラデーションを認めること。
・持続可能なリーダー職の再設計:マネジメント職が「エンドレスな要求をすべて吸収して燃え尽きる役割」ではなく、適切に権限が分散され、サポートを受けられる魅力的な役割へとアップデートすること。
リサーチャーの視点:私たちは「リスクマネジメント世代」になってしまったのだろうか
今回のデロイトの調査結果を見て「今の若者は物欲も出世欲もなく、冷めている」と感じる人も多いかもしれません。しかし、私を含めた多くのZ世代の友人を見ていて感じるのは、「人生における投資対効果(ROI)」をシビアに見極めているだけ、という感覚があります。それが一見ボイコットやキャンセルに見えてしまう、という構造ではないでしょうか。
「Maybe Later(また今度)」という選択は、より思慮深く、慎重に、リスクマネジメントしている結果だと思いますし、投資に対して得られるリターンが自分のなかで見えてこないと行動に移せない、と石橋を叩く感覚です。
それが若者の姿として良いのか悪いのか、の判断は現時点ではつきませんが、リスクマネジメントや見極め力を身につけた世代が成長することで、今後新たなリーダーシップやイノベーションが生まれてくることにも期待したいです。


