SNSをスクロールすると今日も流れてくる、誰かの正論や、効率よく生きるためのコツ。そんなとき、ふと「自分はただ誰かの物語をなぞっているだけではないか?」という、どこか虚無感に襲われることはないでしょうか。
今、現代短歌ブームや、「ポエットコア(Poetcore)」が世界的なライフスタイル・トレンドとして注目されていますが、文学とファッションという2つのジャンルから、MZ世代の新しい価値観を探っていきたいと思います。
「ポエットコア」は、“詩人スタイル” や “作家ルック” と呼ばれるもので、たとえばゆったりとしたタートルネックやヴィンテージのブレザー、クラシックなメッセンジャーバッグなどが挙げられます。
「言いようのなさ」と向き合う大切さ
かつて短歌や詩はどこか「一部の人の高尚な趣味」「遠い世界の感覚的な話」のような印象もありました。しかしここ数年、 #tanka のポストが増えていたり、日常に溶け込むトレンドの一部となりつつあります。
参照:なぜ今ブーム? モデル・前田エマさんと考える韓国の詩が人気の理由(Harumari TOKYO)
Xでポストされる短歌(#tanka) の中には、上の句/下の句でコラボをしたり、公募をして多様な詩に広がることを楽しんだりする投稿もあり、楽しみ方はとっても自由。
また、歌人の木下龍也や岡本真帆の歌集が人気となる背景には、正解のない時代において「この言いようのないモヤモヤを、どうにか言い表してほしい」という切実な欲求があるのではないでしょうか。
また、SNSでの炎上が身近に存在するMZ世代にとって、「何を思ってもいい」「何を表現してもいい」と思える場として短歌や詩が存在している、とも捉えることができます。
イミ消費から、イミづくりへ
短歌を詠むことは、自分だけの極めてパーソナルな想いを、時間をかけて自分の言葉に翻訳していく作業です。AIでクイックに答えを出すことも便利ですが、それとはまったく反対の営みです。
そしてそれは、情報の消費に疲れた私たちが、自分なりの言葉を考え、生み出す瞬間でもあります。
他人の言葉や物語を消費する日々から、自分にとっての「超個人的な物語」を編み出す創造の日々とも言えるかもしれません。そのプロセス自体が、瞑想やジャーナリングと同じように、疲れた心を「凪」へと導いてくれるようです。
「ポエットコア」というファッションスタイルを介した自己表明
この内面の変化に、視覚的な記号を与えたのが「ポエットコア」です。
Pinterest Predicts 2026でトレンドが予測された「ポエットコア」というスタイルは、体に馴染んだ風合いのアイテムによる肩の力が抜けた佇まいと、どこか知性や感受性を感じさせるムードが特徴的です。
効率化や、流行に左右されるスタイルとも異なり「アルゴリズムには乗らない、自分の感性を持つ人間でありたい」という表明にも見えます。ファッションが思考や思想とシームレスにつながるMZ世代にとって、ファッションを通じて自他に表現をすることはきわめてナチュラルです。
そこには、消費するだけではなく、1人の人間として創造し続ける姿勢を示したい、そしてそのスタンスを持つ人こそ魅力的である、と定義する価値観が「ポエットコア」の根底に流れているのではないでしょうか。
リサーチャーの視点:自分は「人間っぽく」何ができるのか
日々AIの加速を体感するほど、私たちはより「人間くさい」もの、つまり不完全で、曖昧で、叙情的なものを求めるようになっていると感じます。それは、ここ数年のレトロブームやアナログブームとも少し異なる、もっと根源的な欲求ではないでしょうか。
短歌を詠むこと、詩を綴ること、そして詩人のような佇まいで日々を過ごすこと。加速しすぎる世界に対して、どうやったら人間だけ(自分だけ)の「意味」を生み出せるだろうかと模索して、バランスを取ろうとしているようにも感じます。
私も、もし自分を見失いそうになったら、まずは一冊の歌集を手に取ってみようと思います。そこから始まる「超個人的な物語」こそが、自分自身の人生に向き合うヒントになりそうです。


