「コスパ」「タイパ」に続く、次なる豊かさの基準になるか——。 そんな期待を背負い、2024年頃からマーケティング界隈で語られ始めた「プロパ(プロセスパフォーマンス)」という言葉。しかし正直、誰もが口にするようなトレンドワードには至っていません。しかし、2026年の私たちのライフスタイルを静かに変えつつあるのは、この「プロパ」という視点のようです。
なぜプロパは浸透しなかったのか。一方で、なぜ今改めて「プロパ的価値観」が求められているのか。効率化の先にある新たなスタンダードを探ります。
プロパとは? 効率最優先から抜け出すための回り道
「プロパ(プロセスパフォーマンス)」とは、端的に言えばその過程(=プロセス)に対して、どれだけの納得感や充足感を得られたのかという指標です。私たちはここ数年「いかに無駄を省き、最短距離で結果を得るか」というタイパ主義の中にいました。ワンタップでモノが届く時代になり、ふとした疑問にはAIが即座に正解を弾き出す、その摩擦なき世界は確かに便利ですが、一方で私たちから「自分が選んだ」「自分が関与した」という手応えを奪っていきました。
そんななかで登場した概念が「プロパ」です。
なぜ「プロパ」の浸透は緩やかだったのか
「コスパ」「タイパ」に続くパフォーマンス起点の価値観を表す言葉として期待されましたが、「プロパ」の浸透が緩やかだったのにはいくつかの理由が考えられます。
・「パフォーマンス」の意味が逆転している
本来パフォーマンス(性能・効率)は、いかに無駄を省くかというニュアンスを持つ言葉でした。しかし、プロパは「あえて手間をかける/無駄を楽しむ」という逆説的な意味を含んでいます。この効率の良さとプロセスの豊かさの矛盾が、直感的な理解を妨げた可能性があるではないでしょうか。
・数値化・客観視が難しい
コスパ(価格)やタイパ(時間)は数字で測れますが、プロパ(納得感・手応え)はきわめて主観的な感情です。「この商品はプロパが1.5倍いい」といった比較がしにくいため、共通言語になりづらかった側面もあるでしょう。
「タイパ」が強すぎた
ここ数年、可処分時間の奪い合いが激化しすぎた結果、消費者はまず爆発的に「タイパ」をする習慣がつきました。プロパという「深さ」を味わう前に、タイパという「速さ」の壁のほうが馴染みやすかったと捉えることができます。
多業界に広がる「プロパ」的価値観
一方で、プロパ的価値観は徐々にさまざまな業界でデザインや体験設計の核として存在しています。
・最後にひと手間をかける 「アサヒ飲料:Fruits Presso(フルーツプレッソ)」
厳選した国産果実を使用し、ひと手間かけて自分好みに作る”超”濃厚果汁希釈飲料。「グラスに入れてかき混ぜる」という動作をあえて工程に組み込み、香りが立つプロセスを楽しめる設計になっています。
・デビューまでのプロセスから応援できる「オーディション番組」
ここ数年でキラーコンテンツと呼べるほど一般化した「オーディション番組」。企画の段階からファンが投票する仕組みや、制作の舞台裏をリアルタイムで配信。結果に至るまでのドラマや熱量にコミットすることに、人々は高いプロパを感じているはずです。
移動しながら働く、住まいのサブスク「ADDress(アドレス)」
ADDressは、国内外の家を利用できる住まいのサブスク。単に目的地へ着くだけではなく、「移動しながら働く」「見知らぬ土地で暮らす」という日々のプロセスをアップデートするサービスとも言えます。最短移動(タイパ)より、間の豊かさやプロセスを重視していると捉えることができます。
プロパの今後は?
今後は、単に時間をかけることではなく、「無駄な時間は徹底的に削り(タイパ)、心を動かす瞬間だけに時間を濃縮する(プロパ)」という2段構えのデザインが求められることが予想されます。「全自動」ではなく、最後は自分で仕上げるといった、おいしいとこ取りのプロセス設計が重要ですし、そういったサービスを提供するお店やサービスも増えている印象です。
また、AIが生成するコンテンツや安価な模倣品が溢れるなかでも、消費者が選ぶ基準として「そのブランドのプロセス(思想や物語)に納得できるか」は今でも強い動機です。スペック比較を超えた「プロパ」の高さこそが、価格競争に巻き込まれない1つの武器になるでしょう。
その際、定量アンケートなどの満足度スコアだけではなく、ユーザーがその体験にどれだけ「能動的に関与したか」を測る動きもさらに強まりを見せるはずです。
リサーチャーの視点:いかに手を汚す体験が得られるのか
「プロパ」の浸透が緩やかだったのは、それが一過性の「トレンド的価値観」というよりは、急速に変化する時代に生きる私たちにとって「今後も続いていく本質的な価値観」に近いものだったからかもしれません。
2026年、AIがほとんどの答えをくれる時代だからこそ、私たちは「自分の手を汚して得た実感」を求めています。これからのプロパは、マーケティング用語を超えて、私たちが「消費の主導権を自分に取り戻すための指標」になり、さまざまなコンテンツの根底に流れる価値観になっていくのではないでしょうか。


