「来月推しのライブチケットが取れた」「大好きなアニメの2期が決まった」「半年後に届く受注生産のバッグをポチった」
そんなとき、ふとよぎる「これでまたしばらくは死ねないな」という少し皮肉な感覚。言葉にすると過激ですが、そこには現代人が不安な日々を生き抜くための欲求やモチベーションを感じます。それはまるで、人生をつなぐための自己投資=「つなぎ投資」です。
将来の大きな成功のためではなく、まずは「数日後、数週間後、数ヶ月後の自分」を生かすために、今の自分が先行投資として「楽しみを予約しておく」消費行動です。
自分で決めた「確かな予定」が、ブレがちな自分軸を支えてくれる
NEW STANDARDと、マクロミルグループのQO社で作成した共同レポートでは、現代の生活者理解を「欲求」に結びつけて構造化するアプローチを採用しました。マズローの欲求モデルをベースに、「現代を代表する9つの欲求段階」と「3層の欲求連鎖モデル」に整理することで、「つなぎ投資」の分析も下記のように捉えることができます。
<例:「つなぎ投資」を捉える3層の欲求連鎖モデル>
・絶対に叶えたい欲求:日常のノイズを忘れるような特別な瞬間に自分を連れていってあげたい(感動体験の欲求)。
・不安を払拭したい欲求:「何が起こるかわからない」というVUCA時代の不安は、先々まで予定を入れることで「自分がコントロールできる安心感」を得たい(自己決定の欲求)
・生活に欠かせない欲求:同じファンダムや界隈の人たちがいることの確認による日々の安心感(所属・共感の欲求)。

ではなぜ、私たちは「未来の予定」を 重視するのでしょうか。そこには複数の背景やインサイトがありそうです。
・デジタル時代特有の「疲れ」と「自己決定欲求」
特に若年層においては、SNSを通じて他人の生活が嫌でも目に入り、無意識に「自分はこれでいいのか?」と承認欲求を刺激され続けています。そんなとき、自分で決めた確かな予定があるだけで、他人の評価に振り回されない「自分軸」を取り戻すことができるのではないでしょうか。
・正解のない時代をサバイブするためのマイルストーン
かつてのように「一段ずつ階段を上れば幸せになれる」という分かりやすいライフモデルが崩れ、「将来への不安」と「今を楽しみたい」欲求が常に複雑に入り乱れる時代になりました。だからこそ、自分の意思で打っていくことができる「未来への杭」を無意識に必要とする傾向があります。

手に入れる瞬間だけではない。手に入れるまでにプロセスを重視
「生きる理由」と書くとおおげさかもしれませんが、上記の共同レポートでは「文脈トライブ(≒スモールマス)」という生活者属性の観点からも、この「つなぎ投資」の傾向は読み解けます。
界隈・推し活文脈トライブ:ライブのチケット購入やイベントの予約、ライブ用の服を購入するなど、推しとの感動体験を未来に予約する。
マネーリテラシー文脈トライブ:「積立がこの額になるまでは」など合理的な仕組みで将来の土台を固め、成長が確認できるように安心を予約する。
美・ファッション探求文脈トライブ:エステや美容院、肌管理などの定期的なメンテナンスを予約し「自分で自分を整えている」という実感を積み重ねることで、自信を持って人前に出られる未来に投資する。
私たちの価値観は、よりモノからコト、そして「イミ」へと変容しつつあります。従来、消費の目的はモノを所有しステータスを誇示する傾向が強いものでしたが、不確かな日々を生きるための「未来の予約」を確保することも重要なアプローチとなりつつあります。そこからは「手に入れた瞬間」だけではなく、予約をしてから届くのを待つまでのプロセスそのものが、生活者の欲求を満たす「価値」になり得ることの示唆が読み解けます。
リサーチャーの視点:「自分の生き方もそんなに悪くない」という手応えへの欲求
「死ねない理由ができた」という言葉は一見危うげですが、現代の「自己救済」とも捉えることができます。共同レポートの調査でも、現代人が強く求めているのは「自己決定の欲求」や「平穏な心身な欲求」であることが見えていきました。
「つなぎ投資」という小さな未来の予約を積み重ねていくことが、不確かな時代を機嫌よく生きていくための手がかりなのかもしれません。たとえば、
・明日の自分のために仕込む:「疲れたから休む」という受け身の姿勢ではなく、「未来に楽しみを回す」という前向きなセルフケア。
・自分の選択ごと肯定する:納得できるものを選ぶことで、「自分の生き方もそんなに悪くないな」と自信を強化する。
といった傾向は、周囲のZ世代の友人を見ていても感じることが多いです。
本記事は、マズローの欲求モデルを現代版に再解釈した調査レポート「現代の欲求モデルから紐解くブランドのあり方」の知見をもとに作成しました。ぜひ、ブランド開発やサービス開発においても、それらの視点をヒントにしていただけましたら幸いです。


