この度、TABILABOは会社名をNEW STANDARDに変更し、新たなスタートを切ることになりました。スタートアップとして5期連続で約150%前後の成長を重ね、順調な成長を続けている今、なぜリブランディングを行うのか?
DeNA共同創業者の川田尚吾さんは、その成長をエンジェル投資家として支え続けてくれた人のひとりです。そんな川田さんとTABILABOという企業体のこれまで、そしてNEW STANDARDのこれからについて語り合いました。
もはやTABILABOは
メディアだけの会社じゃない
川田:リニューアルおめでとうございます。以前からリブランディングの話は聞いていて、いつにするかと気になっていたのですが、増資も決まりタイミングが非常に良かったですね。
久志:ありがとうございます。川田さんにはエンジェル投資家としてずっとサポートいただいており、非常に感謝しています。
川田:改めてにはなるけれど、今回どんな経緯と意図でリブランディングをしたんですか?
久志:今回は社名変更、CIのリブランディング、事業計画・組織制度設計の見直しという、3つの大きなプロジェクトを同時並行で行いました。目的は会社の企業価値を10倍にするためです。5年続いたスタートアップをさらに継続的に成長させ、世の中にインパクトを与えられるようにするために必要だと感じたんです。
川田:なるほど。
久志:ぼくらはクリエイティブを生業としている企業です。日々、クライアントや社会に対してクリエイティブを通じて、なんらかのソリューションを提供しています。自分たちの提供価値を整理し、集大成として改めて自分たちに投入したんです、医者が自分で自分を手術するみたいな(笑)。
川田:わかりやすいたとえですね。創業当初は『TABI LABO』というメディアが事業そのものでしたよね。今はビジネスが拡がり、『TABI LABO』はそのうちのひとつに位置づけられる。それを伝えるという意味でリブランディングは理にかなっていますし、非常にポジティブに感じます。
久志:そうですね。自分たちの想いがサービスを越えてきてしまったんです。それは変わってしまったのではなく、拡がっているということですが。成長していくなかで、自分たちが取り組んでいることの価値の抽象度や解釈の度合いがあがり「本当はこういうことやっていたんだ」と理解が変わりました。改めて言語化したのが今回のコーポレートリブランディングなんです。
川田:コーポレートリブランディングにも2種類あるんじゃないかと思うんです。ひとつはメルカリやスマートニュースのようにひとつのサービスが伸びて、会社名をそれに合わせるケース。もうひとつは会社名とサービス名が最初は一緒だったものの、事業が成長していくうちに本来あるべき関係性を見直して、対外的に宣言するケース。例えば最近だと、Alphabetに社名変更したグーグルが、それにあたりますね。NEW STANDARDもまさしく後者ですよね?
久志:そうです。位置づけをキレイにまとめていただいてありがとうございます(笑)。
事業の
「付け足し」から
「掛け算」へ
久志:スタートアップの場合、事業もチームも付け足しで大きくなりますね。足し算をしていくと、負債が溜まったり、綻びが出たりしてしまう。たとえばTABILABO時代にはメディア事業を中心に、テキスト、動画、リアル店舗、営業、企画、デザイン、エンジニア、など様々なチームが横並びに分かれていたのですが、考え方も仕事の中身もKPIも違う。相互理解が進まなければ、なかなか仕事もうまくいかない。ぼくはそれを負債と呼んでいて、チームをひとつにして掛け算していくのが重要だと感じていたんです。
川田:その結果、どんな組織体になったんですか?
久志:まず、メディアカンパニーからムーブメントカンパニーへ、自分たちの存在意義を再定義し、事業部をBusiness Design & Brand Studio、Media Studio、Product Studioとして整理しました。それぞれが歯車のようにかみ合う組織体にアップデートしたんです。わたしたちは『TABI LABO』というメディアで日々ユーザーとコミュニケーションしてミレニアル世代のインサイトがわかるので、Business Design & Brand Studioでクライアントに価値を提供できる。マーケティング機能があるからプロダクトをつくり届けることができますし、そのプロダクトで得た知見をまたクライアントに提供する……この掛け算で世の中にムーブメントをおこしていく。といったように、足し算ではなく掛け算を目指しています。それが事業を複数もつことの意味だと思うんです。
川田:それがリブランディングにも表れている?
久志:まさにおっしゃる通りで、VIは『EXPANDING』をコンセプトに創りましたし、今回のSTUDIO事業を説明するグラフィックでは有機的に事業が絡み合うことを表現しています。3つの事業をどれだけ掛け算させて、歯車が駆動するかで成長の確度が変わります。企業価値を10倍にするためには、この掛け算が最も重要だと考えたんです、付け足しではなくて。
川田さんにぜひ伺いたかったのですが、DeNA時代や投資先のスタートアップで似たような課題を抱えていた会社はありますか?ある場合は、それをどう解消したのでしょうか?
川田:今までとは異なる事業をはじめて、昔とカルチャーが違うからこそ苦しむのはよくあると思います。DeNAも最初はCtoCのオークション事業に取り組んでいたのですが、その際に重要なのはマーケティングやブランディング、エンジニアリングでした。しかしヤフーオークションに出遅れてしまい、次にDeNAショッピングに取り組むことになります。そのビジネスモデルは、クライアントになる店舗がいて月額を支払ってもらうものです。だからBtoBですし、営業が重要になりました。
久志:組織が大きく変わったんですね。
川田:そう。会社が崩壊するほどのカルチャーギャップがありました。わたしはそれまでサービスの全体を統括していたCOOだったんですが営業部長になりました。現DeNA社長の守安はエンジニアだったんですが、ビジネスサイドに転向し、数値管理をはじめたんです。結局、人の異動が重要だったんです。外部から入ってきてエンジニアリングが全く理解できていない営業部長に「この機能をつくってください」と言われるとエンジニアは嫌がると思うのですが、わたしや守安が伝えることで頑張ってくれる。
久志:とても勉強になります。
川田:人の異動でカルチャーは変わるんです。DeNAは営業が強くなったので、新しい事業をはじめるときも昔の営業チームが新しいチームに合わさり、過去のカルチャーがミックスされて統一されていく。NEW STANDARDもいくつか事業があると思うので、それができるはず。事業が立ち上がるときは一種の価値観が生まれるんです。それは上から与えられるものではなく、生えてくるもの。そこには、これまでその組織が培ってきたカルチャーが必ず入っていると思いますよ。
久志:ぼくらの組織も人を異動させるカルチャーだったんですが、融合が起きる一方で苦しみもありました。でも、川田さんにそう言っていただいて、安心できた部分もあります。
川田:最近ではひとつのサービスで成長する会社も多いですが、メディア企業の場合は同様の課題を抱えることが多いですよね。メディア運営に全力を尽くしていても、最後はマネタイズをしないといけないので営業の要素が入ります。制作と営業の往来をしながら、大人の会社になっていくのだと思います。そのときに崩壊しそうなレベルで険悪になることもありますね(笑)。
久志:そんなとき、どんな風にアドバイスするんですか?
川田:ぼくはあまり経営に口を出さないし、ユーザーとしての意見をフィードバックすることが多いです。けれども、営業組織を立ち上げることは思ったよりもハードだし、経営陣は営業サイドにつかなければいけない、とアドバイスしています。
「レジェンド」に
なるための
次の一手
川田:そういえば、このタイミングでの資金調達の理由ってなんですか?
久志:創業から5年が経ち、徐々にビジネスモデルが構築され、人も成長してきたのですが、足りない部分もありました。それができる会社とパートナーシップを組むことで解消していこうと。例えば電通と協働で僕らの独自のコミュニケーションメソドロジーを開発したり、デザインファームIDEOのCVCであるD4Vさんに出資いただくと同時に、デザイン・シンキングのフレームワークを社内のメンバーにインストールしてもらいました。 これからもどんどん一緒に事業を創っていく予定です。
川田:自分たちの事業を客観視し、足りない部分を注入して、新しい価値を発揮するということですね。レイターステージで提携を前提とした増資は、とてもいいと思います。
久志:今日ぜひ川田さんに伺いたかったのは、なぜ約5年間にわたってぼくらを支援し続けてくれたのか。
川田:あれ、そんな長かったっけ?
久志:1億円を調達した2014年10月のシリーズAで、GCPやGUMI VENTURES、アーキタイプなどと一緒に出資いただき、川田さんは中心的な存在として最初から、どんな大変なときも、ずっとサポートしてくれていました。そこからずっと支援いただいています。ぼくたちはどちらかというとやんちゃで、わかりやすく出来が良い方ではないのですが(笑)、ぼくらになにを期待し続けていてくれたんでしょうか?
川田:NEW STANDARDの事業はある種のカッティングエッジさがあり、それが面白く、ポテンシャルを感じていました。アメリカでは主流だったものの、日本ではほとんど話題にされず、誰も気がついていなかったメディア事業の新しいビジネスモデルである、ブランドスタジオも、創業時からなんとなく(笑)自分たちで思いつき、同じようなコンセプトで事業に取り組んでいたしね。ビジネスフレームワークから論理的に導き出された事業ではなく、時代性、テクノロジー、クリエイティブの掛け算で、ロジックを越えた何かに取り組んでいるから面白いし、勉強になると思っています。論理的な展開は最初はあまり見えていなかったけれどね(笑)。
久志:(笑)。今後のぼくらに対してはいかがでしょうか?
川田:something newがあるだけでは投資した意味がないから、再現性がある事業に変わっていく部分を期待したいですね。ブランドスタジオも立ち上がり更に進化すると思いますし、今後のD2Cや新規事業も期待しています。今後ビジネスが伸びていけば社会的なプレゼンスも高まり、レジェンドになっていくと思いますよ。いまは爆発直前で、その成長する過程を見ていきたいと思っています。
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