2020年代の新しい基準で捉え直す

2020/03/04
久志尚太郎

2020年は、価値観の大変革がおこる年となるでしょう。2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)策定から5年が経ち、世界の方向性を指し示すアジェンダが、日本の社会に、企業やブランドのコミュニケーションを通して私たちの暮らしまで、浸透し始めます。

これからの日本は、独自のローカル・ルールの中で生き続けるのか、それとも世界の潮流に基づいて変革の担い手になるか、が問われることになります。そこで重要になるのは、今現在、世界中で生まれている新しい基準や価値観をまずは理解すること。そして、既にある価値を変えようとするのではなく、新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すフレームワークが鍵になると考えています。

2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すとは、具体的にどういうことか。この記事では、私たちにとって身近なことを例にご説明します。

アジアの伝統食でありながらも、これまで気持ち悪いと敬遠されてきたのが「昆虫食」。しかし、SDGsを達成するためのサステイナブルな「食」として注目を集めるようになりました。

今はまだ、昆虫を食べることに抵抗を感じる人が大半だと思います。しかし、私たちが食べている鳥・豚・牛の肉の動物の権利や、牛がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量が環境に与える負荷は非常に大きな社会問題となっています。

世界の人口増に伴い、その代替となる食糧が求められるなかで、豊富な栄養、加工の容易さ、生産のしやすさ等から昆虫食こそが、その問題を解決する鍵となるかもしれません。今では無印良品がコオロギせんべいを2020年春から発売を計画したり、渋谷PARCOの地下一階に昆虫を提供するレストランがオープンしたりと、私たちの暮らしに浸透し始めています。

ゲテモノから、栄養価の高いスーパーフードへ。昆虫食も新しい基準で捉え直す必要があるのです。


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快適で安全な睡眠場所としてのホテルから、そこでしかできない体験を求めた目的地へ。ホテルは、新たなディスティネーションとなりつつあります。

たとえば、シンガポールにできた「Tribe Theory」は、起業家が世界中から集うコミュニティホテルです。また、ニューヨークを拠点に全米各地及びトロント、ロンドンにハイエンドジムチェーンを展開する「エクィノックス(Equinox)」は2019年6月、ウェルネスに特化した初のラグジュアリーホテル「エクイノックス・ホテル」を複合施設「ハドソン ヤード」内に開業しました。

ほかにも、「荷物を運んでくれるドアマンやコンシエルジュなどが提供していたサービス」を“無駄なサービス”といい、現代人がどこに価値を置くかを形にしたPUBLIC Hotelは、ブティックホテルの仕掛け人 イアン・シュレーガー(Ian Schrager)が手掛けた最新ホテル。“現代人が本当に欲しがるものをあたえることがより良いサービスであり、現代にフィットするラグジュアリーである”と説きました。つまり丁寧なお出迎えより、高速Wi-Fiの無料提供がラグジュアリーであると。

新しい人との出会い、ウェルネスツーリズム、最先端のテクノロジーの体験……その訪問にはさまざまな目的で考えられますが、ホテルは旅行に付随するものから、旅の目的地そのものに変わりつつあるのです。


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オフィスとは、これまで人が集まり仕事をする場所でしたが、SlackやZOOMなどのコミュニケーションツールを中心としたツールの発達により、必ずしもオフィスに集まらずとも仕事ができるようになりました。それに伴い、旅先で仕事をする「ワーケーション」や出張ついでに休暇を楽しむ「ブリージャー」などの言葉も登場しました。

では、デジタルがリアルを飲み込んでいく「アフターデジタル」の時代に求められるオフィスの役割とは何でしょうか? 

NEW STANDARDでは、オフィスを想像力と創造力が広がる場所コーポレートアイデンティティや企業文化を感じ体現する場所だと捉えています。キッチンスペースを使った80人分のランチ自炊文化や、毎月最終週の金曜日にビジネスパートナーや家族、友人を招待して行う『LFMP (Last Friday Meetup Party)』 の開催など、企業カルチャーを体感しグルーヴを醸成するイベントを定期的に実施しています。

これまで、企業制度に「オフィスに来ること」は盛り込まれていましたが、社員が来たいと思わせるオフィスをつくらねばなりません。働くための場所から、組織カルチャーを体感する場へ。オフィスの価値も捉え直し、アップデートする必要があります。


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「バス」はもはや単なる移動手段ではありません。バスが動く家になる時代がやってくるかもしれません。

現在、宮崎県・日南市で実証実験を行なっている「BUSHOUSE」は、キャンピングカーよりも大きいマイクロバスを改装し、2段ベッドやソファー、シャワーなどを設置した、いわば“動く家”。可動式滞在施設とマイクロモビリティ事業を展開する「DADA」によって、“不動産から可動産へ”をコンセプトに生み出されました。

ほかにも、モバイルハウス事業を営むSAMPOや、vanlife関連のサービスが登場しているように、不動産から可動産に価値の転換が始まっています。


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「フェイク」に対する価値観も変わってきています。フェイクという言葉には良いイメージがありませんでしたが、「フェイク」こそが新しい代替品の可能性をもっています。

たとえば、フェイクミート。動物の権利や地球環境への負荷などから、培養肉などが注目を集めています。ほかにも、フェイクファーやフェイクレザーなども、動物愛護の観点から重要視されていますよね。

私たちが運営する『TABI LABO』では、「インテリア雑貨」として注目を集めているフェイクグリーンに関する「フェイクグリーンがインテリアを自由にする」という特集も行ないました。


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これまで「我慢する場所」という認識も強かったサウナは、ここ数年、「ととのった!」という言葉とともに大きなムーブメントとなりました。サウナが「心身を整える場所」に変化したことは、自身の心と身体のバランスと向き合うウェルビーイングの時代にシフトしたことを象徴するものでしょう。

わたしたちもこのムーブメントを盛り上げるべく、当社の熱狂を生み出すクリエイティブやマーケティング手法を駆使して、様々な取り組みを行ってきました。その成果もあり、サウナは日本のマインドフルネスの一端を担い、新しいライフスタイルとして定着しつつあります。

弊社では、フィンランド政府観光局とともに、フィンランド観光の新しいコンセプトを考える施策を行ないました。フィンランドの人々にとっては生活の一部として当たり前の存在である「サウナ」。私たちは日本のサウナムーブメントを更に広めるべく、フィンランド政府観光局も当時注目していなかったサウナを、フィンランドを訪れる新たな価値として提案。

熱狂するサウナコミュニティとともに、「フィンランドサウナアンバサダー」の認定や、フィンランドの本場の食体験など、様々な仕掛けを盛り込んだイベントを開催しました。多面的なコンテンツを通して、イベント参加者がフィンランドサウナ体験意欲を喚起する、CX(Customer experience:顧客体験)を提供しました。

これは、(日本から見た)フィンランドという国のCXコンセプトを考える取り組みとも言い換えられるかもしれません。私たちは「フィンランドは、心と身体の充足感を提供してくれる新しい目的地」と定義し、「ととのう場所」という価値づけをした。「サウナ」を軸として、フィンランドの魅力を再発見したわけです。


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ラグジュアリーとは、その時代における豊かさを象徴するものです。現代において、ラグジュアリーとは単に値段が高く、高級なものを指すのではないと考えています。モノを購入し充足感を得る時代から、心と身体のバランスを整えるウェルビーイングの時代へ。

ミレニアルズより下の世代は、他者評価ではなく、自らの内面的な充足感を重視しつつあります。なので、ラグジュアリーとは知的好奇心を刺激し、自身の五感を見拡げていく体験にシフトしているのではないか、と考えています。

たとえば、LEXUSとコンセプトメイキング&ローンチプロモーションをご一緒した案件では、「自分らしさ=これからのラグジュアリー」と定義し、ミレニアル世代のクリエイターとともに、「自分らしく生きる」ことを探求しました。

そこでのキーワードは、「LIFEGENIC(ライフジェニック)」。好奇心にウソをつかず、自分らしく生きることを追求し続けるライフスタイルを。そんな、今を自然体で生きる姿勢に想いを込めて生まれた言葉です。


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テクノロジーの進化や基準・価値観の大きな変化など、現代は過渡期を迎えています。「日本には関係ない、私には関係ない。」は通用しない。この変化は、かつてはカウンターカルチャーとして捉えられていたものが、時代の中心になるような大きな流れであり、若年層のなかで流行しているトレンドでも、マーケティング業界のバズワードでもないのです。
だからこそ、企業やブランドはSDGsなどを背景にミレニアルズから生まれた新しい基準で捉え直し、新しいマーケットを生み出していくべきなのではないでしょうか。

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