2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直す──。そんなテーマでスタートした本連載。第1回目では、昆虫食やホテル、オフィスなどの価値のアップデートを紹介しました。
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)策定から5年が経ち、世界の方向性を指し示すアジェンダが、日本の社会に、企業やブランドのコミュニケーションを通して私たちの暮らしまで、浸透し始めています。
また、新型コロナウイルスに伴う感染症「COVID-19」によって、私たちが生きる社会は大きな変化を迎えることになります。その世界において重要なのは、いま現在、世界中で生まれている新しい基準や価値観をまずは理解すること。そして、既にある価値を変えようとするのではなく、新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すフレームワークが鍵になると考えています。
前回に引き続き、私たちにとって身近な例から2020年代の価値観を紐解いていきます。
人々の購買行動にも新たな変化が訪れています。「ものを買う」という行為は、単なる消費活動でした。しかしいま、その行為は事業者への応援であり、投票行為の色が強くなっていると感じています。
新型コロナウイルスに伴い、その変化は顕著になっています。例えば、「HOTEL SHE」などを経営するホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは『未来に泊まれる宿泊券』を販売するプラットフォーム「CHILLNN」を立ち上げ、さまざなホテルが支援を募っています。
ほかにも全国各地のクラブやライブハウスが、「自粛(休業)要請」のなかで、クラウドファンディングを通じて支援を募っています。
消費者一人ひとりは、自分にとって何が大切で、残していきたいものなのか。「購入」という行為を通じて表明することが、重要になってきているわけです。
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もはや言うまでもないかもしれませんが、新型コロナウイルスに伴う感染症「COVID-19」の影響により、在宅勤務者が増え、都市部では多くの飲食店が営業を休止しました。
これまで飲み会と言えば対面で行われるものでしたが、オンライン会議サービス「Zoom」を用いたオンライン飲み会が増加しています。ほかにも、Zoomを利用したキャバクラ「ズムキャバ」や、会員制・招待コミュニティ「6curry」はZoom店をオープンするなど、飲食店のサービス提供やそれに伴うコミュニティがオンラインに移行しつつあります。
新型コロナウイルスの影響の長期化が予測されるなかで、このような変化は進んでいくでしょう。
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これまでメイクは女性がするものと捉えられてきましたが、性別やセクシャリティを問わずに「メイクをする」行為が広がりつつあります。
たとえば、韓国のジェンダーニュートラル・メイクアップブランド「LAKA(ラカ)」は2019年12月に日本に上陸。2020年4月1日には、コスメブランド「ORBIS (オルビス)」のメンズライン「ORBIS Mr.(オルビス ミスター)」が、同ブランド初となるメンズ用基礎化粧品の展開を始めています。米国では「Sephora(セフォラ)」が、日本では「資生堂」がトランスジェンダー向けのメイクアップ講座を開くなどの動きもあります。
メイクは、あらゆる人々が自己表現し、セルフケアのために取り組むものとして普及しつつあるのです。
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国際線に乗るときに余裕をもって空港に到着する、乗り継ぎの際に空港でしばらく待つといったときに、これまで空港での時間の使い方にポジティブなものはあまり存在しませんでした。しかしいま、世界の空港のあり方は大きく変わっています。
たとえば、羽田空港第一旅客ターミナルビルにはボクシングフィットネスの「b-monster HANEDA studio」が入居する「THE HANEDA HOUSE」が2018年末にオープン。成田空港から5分の場所には天然温泉施設「成田空港温泉 空の湯」ができるなど、滞在時間をより良く活用する施設が増えつつあります。
世界的にも、シンガポール・チャンギ国際空港の植物園や、ニューヨークJFK国際空港にオープンした「TWAホテル」など、空港そのものが目的地となる施設もできています。『TABI LABO』でも、ポートランド空港にできたミニシアターや、空港の待ち時間にプライベート空間を楽しめる「AirPod」を紹介してきました。
空港は、エンタメや商業施設、あるいはテクノロジー導入の実験場であり、新たな体験を享受する場へと変わってきているのです。
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これまでスポーツは、競争してうまくなるための競技という認識でした。しかし、現代において心と身体のコンディションを整えるためにスポーツをする人も多いはず。身体を動かすことの意味が変わってきているように感じています。
『TABI LABO』ではイオンウォーターとともに「スポーツドリンク」の価値を再提案する案件を実施しました。「サウナといえばイオンウォーター」という記事を公式でも出すくらい、「ととのう」ための飲料として支持されてきたイオンウォーター。それは、心と身体のコンディショニングを整えるために身体を動かす人々の、ウェルビーイング向上に貢献するドリンクでもあるわけです。
人々のスポーツへの向き合い方が変われば、それに伴う消費も変わっていく。そんな未来を考えながら制作した事例でした。
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「結婚式」という言葉を聞くと、挙式や披露宴会場を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、結婚式のあり方も変化が生じています。
オリジナルウエディングの実現をサポートするCRAZY WEDDINGは、「披露宴のない結婚式」を実現する会場「IWAI」をオープンしたり、星野リゾートとともに2泊3日の「IWAI旅」をリリースしたりと、従来の結婚式のアップデートに取り組んでいます。
最近では、新型コロナウイルスの影響による外出自粛から「ZOOM結婚式」を挙げる人々も出てきており、結婚の常識はさらに大きく変わっていきそうです。
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CDJやPCDJの登場によってDJを始める敷居が下がったように、楽器演奏も変わり始めました。誰もが参加できる「ゆるスポーツ」を展開してきた、一般社団法人 世界ゆるスポーツ協会代表の澤田智洋さんは、新たに「ゆるミュージック」を始めました。
ゆるミュージックとは、「だれもが楽しめるスポーツ開発」の知見を「だれもが楽しめる楽器開発」に活かし、すべての人に楽器を演奏する喜びを提供するプロジェクト。「ゆる楽器」として、普段打ちなれているパソコンのキーボードを楽器とした「TYPE PLAYER」や、ポーズをとることでギター・コードを鳴らせる「POSE GUITAR」を開発。
これまで楽器演奏には練習が必要であり、大勢でその楽しさや喜びを味わうことは難しかったのですが、「ゆるミュージック」はその敷居を下げた事例と言えそうです。
NEW STANDARDでは、新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すフレームワークを活用しながら、社会のさまざまなトレンドの裏側にある変化を考察していきます。次回も、ぜひご期待ください。