2020年代の新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直す──。そんなテーマでスタートした本連載。第6回目では、スニーカーやアート、株式上場の条件などの価値のアップデートを紹介しました。
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国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)策定が採択された2015年から、年を追うごとに世界の方向性を指し示すアジェンダが、日本の社会に、企業やブランドのコミュニケーションを通して私たちの暮らしまで、浸透し始めています。
また、新型コロナウイルスに伴う感染症(COVID-19)によって、私たちが生きる社会は大きな変化を迎えることになります。その世界において重要なのは、いま現在、世界中で生まれている新しい基準や価値観をまずは理解すること。そして、既にある価値を変えようとするのではなく、新しい基準や価値観で従来の価値を捉え直すフレームワークが鍵になると考えています。
今回は絵文字から都市における公園や緑地まで、2020年代の価値観を紐解いていきます。
私たちのデジタルコミュニケーションにおいて、欠くことのできない存在になっている絵文字。小さなアイコンで端的に感情や状況を示せる豊かな表現力の一方で、これまでその限られた枠の中に「代表」されてきたのは、男性や白人といった、特定の性別や人種でした。
こうした絵文字のラインナップに問題提起する声が多く集まり、2017年には男性と女性、さらには性別を特定しない「ジェンダーレスな絵文字」が登場しました。家族を表す絵文字にも、様々な家族構成が選べるようになっていることに気がついている方も多いでしょう。
絵文字に限らず、様々なツールやサービスに私たちの社会に存在する多様性を反映していくことの重要性は、日に日に高まっているように思えます。自らの性別や人種がそこに反映されていなかったら、自分が世界に認められていない、疎外されている感覚を持ってしまうひともいるでしょう。
「自分のものとして」感じられないことが、数多あるツールやサービスから、特定のサービスが選ばれない理由になることもあるでしょう。広くあまねく人々に向けたサービスを設計する際に、その使い手の人たちの考えやアイデンティティをきちんと反映していくことが求められていくと考えられます。
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ジェンダーを取り巻く新しいスタンダードは、マッチングアプリの世界にも見て取れます。
アメリカで生まれたマッチングアプリの「Bumble」は、「女性主導のマッチングアプリ」として注目を集めています。運営する米バンブルは2021年2月11日に米株式市場に上場し、前日のIPOの規模は21億5000万ドル(約2250億円)に拡大するなど、マーケットから寄せられている期待も大きなものがあります。
このマッチングアプリのポイントは「1通目のメッセージは女性からしか送れない」という点。マッチングが成功しても24時間以内に女性からメッセージを送らなければ、それは無効になってしまうのです。これまでの「女性はしおらしく、男性から声をかけられるのを待つ」「男性に主導権を握らせるべき」というジェンダーイメージを打破し、「あなた(女性)から行動を起こそう」と呼びかけています。
CEOのホイットニー・ウルフ氏は、実は元「Tinder」の共同創業者。しかし、元上司からのセクハラや差別を訴えて退職。これまでの男性目線でつくられた固定概念や慣習に強く疑問をもち、「デジタルの世界から変えていきたい」として同サービスをローンチしたのです。
このように、私たちの社会に根強く蔓延る慣習によって、ある特定の人に使いづらさや不自由を感じさせている事例は、数多く存在しています。例えばそれらを、「ジェンダー」という視点で捉え直してみるだけでも、新しいスタンダードやビジネスの可能性を探ることができるのではないでしょうか。
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女性にとって、月に一度訪れる生理を乗り切るための生理用品は、日用品の範疇を超えた必需品です。しかし、2017年に英国で行なわれた調査によると、10人に1人が「生理用品を購入する金銭的な余裕がない」と回答。トイレットペーパーを代わりに使ったり、服が汚れることを恐れて学校を欠席する女性も半数以上存在することがわかったといいます。
プライベートな話題だけに声が上げづらい問題ですが、2020年にスコットランドが世界で初めて、政府として生理用品の無償提供の実施を表明すると、イングランドやニュージーランド、フランスも続々と無償化を決定。日本でも先日、NPO法人などを通じて同様の支援を行うことが閣議決定されました。
女性の生理用品問題のみならず、行政や公共団体が包括してケアすべき対象が多様化する中で、「障害を取り除き、より多くの人が持つ可能性を生かす社会にしていく」という役割のアップデートが、今後いっそう求められていくのではないでしょうか。こうしたサポートを広げるための民間との連携も、重要になっていくと考えられます。そのリーダーシップを取れる行政やブランドこそが、支持され、尊敬されるようになると考えられます。
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薬草茶などの商品を展開する伝統茶ブランド「tabel」は、日本の薬草を使ったナチュラルなエナジードリンクを開発し、発表しました。一般的なエナジードリンクのケミカルなイメージとは異なる、厳選したハーブや国産のきび糖、蜂蜜などの栄養豊富な食材を使用した、自然由来のエナジードリンクです。
また、エナジードリンクの代表格ともいえる「Redbull」も、オーガニック素材を用いたラインを発売するなど、エナジードリンクの選択肢もバリエーションが増えてきています。
「TABI LABO」でも度々インタビューをご紹介しているプロデューサーの小橋賢児さんが、EDMフェスのULTRA JAPANから、ノンアルコールバーや「心をゼロにする」リトリートラウンジを手掛けるようになったのも象徴的ですが、ケミカルで無理矢理ブーストをかけるのではなく、サウナやメディテーションのように、コンディションを「ととのえる」ことによってパフォーマンスを上げようとする時代の動きが強くなっていることを感じます。
もしかしたら、これまで「アクティブ/アッパー」なアプローチをしていたものを逆の切り口で捉えてみると、新しいニーズやビジネスの可能性が見えてくるかもしれません。
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世界的なパンデミックで外出自粛や在宅勤務が長引く中、外に出てリフレッシュすることの重要性を多くの人が感じるようになりました。事実、大きな公園、小さな街角の広場を問わず“公園は人々の幸福度を高める”ようです。
コロナ禍のアメリカでは、2050年までにすべての人が徒歩10分以内でいける公園や緑地の整備を目指すムーブメント「10 Minute Walk」が活発になっています。全米の各自治体の市長らも協力する本格的な運動で、実に266人の市長が署名済みだというのだから驚きます。
ほかにも、フランス・パリ市では、誰もが車を用いずとも、15分で仕事、学校、買い物、公園、そしてあらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指すとする、「15分都市構想」が市長によって宣言されています。ロックダウンのような緊急事態を経験した市民たちのなかで、こうした都市構想はますます強く求められてくるのではないでしょうか。
誰もが公共の空間にアクセスしやすく、徒歩圏内にライフラインを構築できる街づくりは、まずは公園が身近になることから加速していくのかもしれませんね。
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有名観光地をめぐるありきたりなツアーに飽きた観光客が、Instagramで見つけた「秘境」と言われるところに足を伸ばすようになり、それが話題を呼び、結局は「秘境」とされていた場所もありきたりな観光地になってしまう……そんな観光地の消費スピードが、年々早くなってきているように感じます。
「暮らすように旅する」と、Airbnbが民泊というスタイルを打ち出したことは革新的でしたが、世界的にも、有名観光地を訪れることを目的とする観光から、ローカルな生活を楽しむことを目的とする観光へのシフトが進んでいます。
デンマークのコペンハーゲンでは、2017年に従来の観光のありかたから脱却することを宣言。観光客が一時的な市民として、コミュニティに参加しながら滞在を楽しめるような「観光」を目指していくと表明しています。ほかにも、地元の人と(擬似)結婚をし、「ハネムーン」としてローカルなスポットをともに巡る……といったユニークな旅企画も生まれています。
気軽に遠出をすることが難しい時世のなかで、まさに私たちも、身近にあるローカルな魅力に目を向け始めているところですよね。この経験は、グローバルな往来が可能になった時に、きっと活きてくるのではないでしょうか。
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