スタートアップの事業成長に欠かせない「デザインの本質」とは?──対談:D4V ディレクター・高橋亮 × NEW STANDARD代表・久志尚太郎

2024/02/27
ニュースタ!編集部

NEW STANDARDでは、デザイン思考の専門家集団として、コーポレートマガジン『ニュースタ!』にて「デザイン思考」や「意味のイノベーション」について社外の専門家や実践者たちと対談していく連載シリーズを展開します。

その第二回に登場いただくのは、「D4V(Design for Ventures)」のデザイン・ディレクターである高橋亮さんです。

D4Vはデザイン思考を世に広めた「IDEO」と、日本のベンチャーキャピタル「Genuine Startups」の合弁で2016年に設立されたベンチャーキャピタルです。スタートアップ×デザインがもたらす可能性を最大化することを掲げており、デザインを通じた事業成長を支援しています。

NEW STANDARDは2019年に「TABI LABO」から社名を変更。その際、D4Vからの出資や、IDEO・D4Vから伴走支援を受けています。NEW STANDARD代表の久志尚太郎は、伴走支援を次のように振り返ります。

「NEW STANDARDの事業成長のためには、IDEOやD4Vのもつデザインのマインドセットを学ぶことは欠かせなかったと思っています」

今回はD4V・高橋亮さんとNEW STANDARD代表・久志の対談を実施。事業成長をドライブする「デザインの本質」について考えます。


(写真左より)高橋亮さん、久志尚太郎

事業をドライブする「デザイン」の役割って?

久志:メディアを創業事業にもつNEW STANDARDは現在、ブランド開発コンサルティングファーム、N1起点CX開発エージェンシー、ミレニアル/Z(MZ)世代の新しい基準や価値観を研究するシンクタンク、という3つの事業で構成されています。
MZ世代を中心にユーザーを抱えるメディア『TABI LABO』の運営を行っているからこそ、世界のトレンドやMZ世代のインサイトを熟知しています。そのメディア事業ならではのケイパビリティを活用し、シンクタンクを設立。このシンクタンクでは、メディア運営に加えて、MZ世代の調査活動、調査レポートの発行作成、グロービス経営大学が運営する学習プラットフォームとの講座連携、東京大学との共同研究、デザイン思考の研究活動、デザイン思考に関するメソドロジーやメソッドの開発、などに取り組んできました。このような事業変革のインスピレーションとなったのが、創業以来大切にしてきたデザインの力なんです。改めて、D4Vの事業におけるデザインの捉え方について聞かせてください。

高橋:デザインというと色や形などの意匠部分を想像するかもしれませんが、僕たちは社会的なサービスやシステム、ビジネスや空間、文化などをユーザー中心に考える「広義のデザイン」に注目してきました。デザイン思考を、既存のサービスやプロダクトを差別化したり、新たなイノベーションを生んだりするための単なるプロセスやメソッドとして捉えるのではなく、マインドセットや組織文化として浸透させていくことを重視しています。
なので、D4Vとしてはスタートアップに投資するだけでなく、パートナーとしてIDEOやD4Vで培ったデザイン思考のノウハウを伝えていくこと、デザインを中心とした組織文化の醸成を支援することを掲げています。

久志:出資をいただく以前からIDEOやD4Vの取り組みに注目していました。その頃は、デザイン思考を体系的に学ぶために、留学も考えていたほどです。出資後、IDEOのサンフランシスコオフィスやスタンフォード大学のd.schoolを訪問したのは良き思い出です。D4Vは、2020年には伴走支援の一貫として創業期のスタートアップでデザイナーが活躍するために必要なスキルやマインドセットを学ぶためのコミュニティとして「First Designers」を立ち上げていますよね。亮さんはスタートアップにおいてデザインやデザイナーの役割をどのように捉えています?

高橋:事業のフェーズごとに3つの役割をもつと考えています。事業をつくるフェーズでは課題解決に向けた仮説としてプロトタイプをつくって、早いスピードで検証プロセスを回していくこと。プロダクトが完成した後のフェーズには、プロダクトが持つ価値や意味をユーザーに伝えるためのコミュニケーションを設計すること。グロースフェーズではユーザーからのインサイトを抽出してプロダクトを最適化・改善していくこと。これらの3つの役割を担えるデザイナーは、その後の会社が成長する可能性を無限に広げ、向かうべき先を決定付けられるはず。

久志:亮さんの話を聞いていて、思わずうんうんと頷いてしまいました。2019年にNEW STANDARDは、IDEOやD4Vにデザイン思考を全社的にインストールいただききました。今では、デザイン思考なしには当社を語れないというくらい、社内にデザイン思考が浸透しています。亮さんには「Tune(D4VとNEW STANDARDがデザイン思考のアプローチを取り入れながら開発したセルフコンディショニング・サプリメント)」や「オフィス&カルチャー再編プロジェクト(オフィスというリアルな場が持つ価値を再定義することで、人が交わる場所としてのオフィスをデザイン)」について、デザイン思考のインストールの一環としてプロジェクトの伴走支援をいただきました。
そのときに改めて実感したのは「創り手のビジョンやユーザーのインサイトといった抽象的な概念を構造的に整理しながら、表現に落とし込むデザインの力」です。ユーザー中心の視点に立ち、課題を特定し、理想の未来を創造する。最初は抽象的なビジョンでもあっても、プロトタイプやユーザーヒアリングを通じてインサイトの抽出を繰り返し、視界を広げるように言語化・構造化を進めていく──。NEW STANDARDは、IDEOやD4Vから学んだデザイン思考に関するマインドセットやプロセスを継承し、今ではデザイン思考実務とデザイン思考研究を往復することで、NEW STANDARD独自のデザイン思考メソッドを研究開発をするほどです。課題解決に留まらない、ユーザーにとって新たな価値(イミ)をもたらすプロダクトやサービス開発を可能とするソリューションを、多くのクライアント様へ提供しています。

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スタートアップにおけるデザイン思考の実践に迫る

高橋:NEW STANDARDの取り組みを見ていると、デザインが「文化」として浸透していることがひしひしと伝わってきますよね。
デザイン思考の実践において大切なのは「具体と抽象を行き来すること」だと考えています。デザイン思考には「共感」「問題定義」「発想」「プロトタイプ」「テスト」という5つのステップがあるとよく言われるんですが、必ずしもこの5つを順番にやればいいという訳でもないと思うんです。一つひとつをやっているとどうしても時間がかかってしまう。大企業であれば別ですが、短期的な成果を重視されるスタートアップでは全てのプロセスをやる体力がないケースがほとんど。
だからこそ、デザイン思考の細部のテクニックを学ぶだけでなく、そこから「創造的問題解決」と呼ばれるような思考法を学ぶこと。適材適所でそのノウハウを活用できるように、人や環境に投資していくこと。このような企業文化をつくることが本質的に重要ではないでしょうか。

久志:たしかに「教科書的なデザイン思考に囚われないこと」や「具体と抽象の行き来すること」は普段からかなり意識していますね。そもそもデザイン思考って、「自分たちの中で問いを見つけて、その解決策を考案し、それをプロトタイピングしながら実装する、創造的問題解決そのもの」です。誰も答えをもっていない問いに立ち向かうからこそ、小さく早くたくさん失敗することが重要です。そのためには、デザイン思考の実装に関しても、自社の状況と照らし合わせて最もトライアンドエラーを重ねられるスタイルを模索していくことが大切だと思っています。

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デザインの力を信じる

高橋:日頃から思っていたのですが、NEW STANDARDは本当にデザインの力を信じている会社ですよね。D4Vが立ち上がった2016年と比べると、スタートアップの環境でも「アジャイル」や「リーン」といった言葉とともにデザインが会社経営に不可欠なピースとして浸透してきていると思います。ただ、UI設計やブランディングなど、ユーザーとの接点をつくり上げる部分への注目が大半で、会社の経営そのものがデザイナーの活躍領域であることはまだまだ認識されていない印象です。インハウスでデザイナーを抱えるスタートアップ企業が増えていますが、開発業務にデザイン人材を充てている場合がほとんど。プロダクト以外の業務、たとえば経営戦略やコーポレートといった領域で、うまくデザインをレバレッジできていない会社も多いと感じています。

久志:先ほども少しだけ触れましたが、NEW STANDARDが社内体制や事業構造を変更できたのも、デザインの考え方が自分達の中に浸透していたからなんですよね。課題の解決に向けて本当に必要な方法を見つけ出し、プロトタイピングを繰り返していく。クリエイティブコンフィデンスを大切にしながら、小さく早く沢山の失敗を繰り返す。設計と意匠を同時に考え、実装していく。デザインの力を、プロダクトやサービスだけではなく、組織開発や経営に活かしていく。本当に、様々な場面でデザインの力を信じ、活用しています。

「デザインの真価」を社会に浸透させていく

久志:IDEOは日本での今後の展開として、2024年の前半には東京オフィスを閉鎖し、D4Vのサポートにフォーカスしていく方針を発表したと思います。今後、D4Vとしてはどのような展開を考えていますか?

高橋:IDEOがD4Vの重要なパートナーであること、そして投資先のスタートアップに提供するサポートのあり方は変わりません。今後はスタートアップにおけるデザインのインパクトを可視化することで、デザインの真価を社会により浸透させていければと考えています。デザインの本質的な価値って測定が難しいものだと思うんですよね。D4Vが伴走支援をすることの成功の定義のひとつは「社内のメンバー全員がデザイン思考によるマインドセットを獲得すること」だと思っています。これが達成できた会社は長い目でみれば確実に成長が伴ってくると思うんですが、短期的な価値の測定は難しい。
たとえば、社内にいるデザイナーの貢献度で考えても、デザインしたピッチ資料が決め手になって投資が決まったとか、担当したプロダクトが想定以上に売れたとかであれば、その成果が社内全体に伝わりやすいと思います。一方、リサーチやインタビューから課題解決の糸口を発見した、といったデザインプロセスの一部への貢献となると、定量的な評価は難しいですよね。目に見えるアウトプットがないので、一緒に働いたメンバーしかその価値を実感できません。こうした背景もあって、企業としてはアウトプットとアウトカムが明確な見た目のデザインのほうに投資しやすくなります。
デザイナーとしてある程度の意匠スキルを持つことはもちろん重要ですが、それだけでは経営に与えられるインパクトは限定的です。抽象的な概念や定性的な情報の集まりを構造化・具体化していく能力、つまりデザインという行為の過程で獲得したスキルやマインドセットを発揮できる人材ほど、スタートアップで活躍できる機会の幅は広がります。ただ、残念ながらそうは認識されていないのが実情なので、D4Vとしては投資指標の可視化や人材育成を通じて、現状を変えていければと考えています。

久志:デザインがある種のカルチャーとして浸透するということは、農業でいう「微生物豊かな土壌をつくること」に近いと思います。病気や台風でダメージを受けても、新たな種さえ蒔けばまた良い作物が生まれる土壌をつくる──。IDEOやD4Vが培ってきたデザインの本質的な意味やその力を、広く社会に伝えていくためにも、デザイン思考実務やデザイン思考研究を通じて、積極的に活動していければと改めて思いました。

高橋:NEW STANDARDはスタートアップという当事者の立場から、会社のビジョン策定から事業構想にいたるまで、あらゆる場面においてデザイン思考のマインドセットを活用してきたからこそ、見ている景色があるのではないかと思っています。D4Vは体系化してきたメソッドをトップダウン的に伝えるアプローチを取っているからこそ、NEW STANDARDには当事者目線からのデザインの力を伝えていってもらえると嬉しいです。

久志:デザインをより社会に浸透させていくためにも、力を合わせながら活動していければ幸いです。本日はありがとうございました。

PHOTOGRAPHS BY SHUNSUKE IMAI, TEXT BY KAI KOJIMA, INTERVIEW BY KOTARO OKADA


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